「なあ今夜、ドライブでも行かないか？」
「うふふ、別にいいけど…貴方、車なんて持ってたかしら？」
「友達に借りたんだ。ちょっと、オンボロだけど」

俺の好きなその女(ひと)は、いつも笑顔で俺の心を癒してくれる。
でも、俺には彼女の心を癒してあげることができない。
「あんな奴のどこがいいんだ」
化粧で隠してはいるけど、時折泣きはらした跡がシャドウのように目のふちに残っている。
それを見つける度に、いつも思う。

そのボロい車で海まで走る。
俺のポケットには小さな箱が用意されていた。
たぶん今夜が彼女と過ごす最初で最後の夜だ。
真っ直ぐな気持ちを彼女にぶつけた。
「俺には、君に綺麗な花嫁衣装を着せてあげることが出来ないかもしれない。でも俺なら、君の傍にいつも一緒にいてあげられる。いつも一緒にいて欲しい。どうか、この指輪を受け取ってくれないか」
いつも通りの笑顔で、彼女は応える。
「有り難う、でも受けとれないわ。貴方が彼のことを良く思ってないのは知ってるけど、わたしは彼のことが好きなの」
彼女は続ける。
「毎日、満員電車に揺られてくたくたになって部屋に帰るの。そして、今度いつ会えるかな…って彼のことを想うの。そんな時、わたしは幸せ。貴方が傍にいて『好き』って一万回言ってくれるより、あの人のことを『好き』って思ってる時間の方が何倍も幸せなのよ」


問題

上の物語は、ある歌のバックストーリーを勝手に想像で膨らまして描いたものです。
歌のタイトルを囁くと「かってに君」が反応しますが、次回作の希望等ございましたら併せてお書きください。