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何故、開かなかったのか
難易度:★★★
ラナー 2008/10/01 16:40 小雨が絶え間なく降っている。朝からずっとそうだった、山奥のここでもそうらしい。
「まあまあ、皆さんお揃いで。悪いんですけど、今主人は仕事中で、ほら、またあそこに籠っているんですよ」 そう言って、彼女が差し出した手の指し示す先には、木造の離れがあった。ただ、シロアリのことを考えてか基礎は金属だった。 「離れとは、珍しいですな。」 伊礼が言う。確かに、離れがある住宅があるというのも珍しい。奥さんの口ぶりからすると、松岡は仕事中には大体あそこにいるらしい。 「大丈夫ですよ、原稿を取りに来ただけですから。それより、折角来たんでこの家を見ていってもいいですか。実はそのためにみんなで来たんですよ」 私は言う。彼女は、もちろんいいですよ、などという意味の返答をしたついでに、気の利いた冗談を言ったらしく、石嶺も伊礼も勝連も笑っていた。しかし、宮城だけは意味がわからなかったのか、苦笑いだった。 私たちと松岡は同じ大学の同窓生だ。今は松岡は小説家、ほかの5名は小さな雑誌を作る会社に勤務している。ちなみに、皆沖縄の出身だ。彼の奥さんもそうだろう。 皆、最近島から出てきたのだ。 五分ほどすると雨足が強くなった。 「珍しいわね。あまり降らないのに」 このあたりは雨がかなり少ない地域だ。しかし、雨足はさらに強くなり、ものすごいどしゃ降りになった。 三十分ほどすると雨は元の小雨に戻った。 「ありゃ、もう7時だ」 誰かが言った。つられて時計を見る。7時を5分ぐらい過ぎていた。 「そろそろ、主人を呼んできましょうね。いくらなんでも長すぎだわ」 そう言い、彼女は傘をさして離れへ向かっていった。 「我々も行きましょうか」 「そうだな」 早く原稿を貰わないと、休みが取れなくなるな。私は、彼らに遅れて席を立った。 「ちょっと、あなた、開けてよ」 どうやら、松岡が戸をあけないらしい、どうしたのだろう。 近づいてみると事態はもっと悪かった。松岡が返事をしないらしい。 「中で眠ったんじゃないんですか〜」 宮城が言った。 「本当に開かないぞ」 どんなに力を入れてもびくともしない。 「ドアを壊すぞ」 大の大人が5名とハンマー、のこぎりがあったので壁はほどなく壊れた。 中には、松岡が倒れていた。 「松岡は死んでいた。心臓マヒだったらしい。もともと、心臓に持病があるという話は聞いていたんだがな。それと、松岡は十分くらい苦しがっていたそうだ。かわいそうにな」 「じゃあなんで、松岡は出てこなかったんだ?」 一同が沈黙する。 離れの鍵は簡単な機構でバーを回すだけものだ。力もいらない。いくら苦しくても松岡がそれを開けられないということは考えられない。 楔などを打ち込めば外からドアを開かないようにすることは可能かもしれない。しかし、殺すならもっと確実な方法があったはずだ。 「そういえば、昨日の大雨であそこへの道が土砂崩れの危険があるって、通れなかったらしいぜ」 他にここへ来る道はない。 「あそこの中につっかい棒があったのかも」 宮城が思いつきを口にする。離れのドアはスライド式で両開きである。つっかい棒を掛けても何の意味もないし、自分でそれをする理由もない。 「どっちにしろ最大の謎は、なぜ鍵をかけたのかだ。しかし、これを考えるのは警察の仕事だ、俺たちにはもっと大事な仕事がある。松岡の代わりをだれに依頼するかだ」 私は言った。 問 なぜ、ドアが開かなかったのか。
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