人里離れた山中でメルセデスベンツの運転席に乗った男性の死体が発見された。
通報者は山菜取りに来ていたという地元の女性で、窓の隙間からホースが伸びている妙なクルマが停まっているので、
不審に思い近づいてみたところ、不幸にも第一発見者になったという。
発見時にベンツのエンジンは止まっていた。

死体の身元はすぐに割れた。
地元では有名な資産家の坂田誠三だったからだ。
金融業に不動産業、パチンコ店の経営などで財を成し、地元政財界に対して計り知れない影響力を持つ。
自殺とは縁遠いと思われる男だが、黒い噂も絶えない。

県警の鑑識課長　安岡は現場に到着すると部下の飯田鑑識官に聞いた。
「自殺か？」
ベンツ車内で遺留品を採取していた飯田は、手を止めて答えた。
「恐らくそうでしょう。死因は一酸化炭素中毒、鮮紅色の死斑も見られます。二日は経ってますね。外傷は見られません。」
「目立つ遺留品はないのか？」
「今のところありません。夫人の話によるとこのベンツ、普段は専属の運転手が管理していたそうで、よく掃除されています。」
「クルマの外観は？」
「右前方のバンパーに擦り傷があります。最近できたものですね。塗料片は見つかっていません。昨日の雨で流された可能性はありますが。」
「つまり、どこでぶつけたのか分からんということか？」
「はい。」
「ふむ、ホースで排気ガスを車内に引き込んだ典型的な自殺ってことか･･･。しかし、動機はなんだ？」
「それは分かりませんが、暴力団との絡みもあったそうですからね。」
飯田はそう言うと車内の鑑識作業に戻った。

資産家に裏の顔は付き物だ。動機は後から捜査で分かるだろう。
安岡は現場を飯田に任せ、県警に帰ろうとパトカーに向かった。

すると後ろで「キュー　キュー」と何かをこすり合わせるような嫌な音が響いた。
安岡が振り向くと、飯田が頭を掻きながら言った。
「すみません。ワイパーレバーを倒してしまいました。外車ってのはワイパーレバーが左についてるんですね。」
嫌な音は、乾いたフロントガラスをワイパーが往復したものだった。
安岡は顔を強張らせて言った。
「飯田、坂田誠三は自殺じゃないぞ。一係の課長を呼べ。」

安岡の言葉の根拠を答えてほしい。
（カンタンすぎて困りますよね･･･^_^;）


【補　　　足】
予想を超える多くの方々にご参加いただきました。
本当にありがとうございます。
4月15日(火)23:30現在、正解者は2名様です。
正解者が5名になった時点でロックさせていただきます。

で、ヒントを一つ。

クルマの中にホースで排気ガスを引き込んで自殺する場合、アイドリング状態のままで死を待つことになりますね。
坂田が死んだ後のことを想像してください。