Z県I市。
とあるバーで、人が殺されたと通報が入った。
新米刑事の俺は、いつもの三田村警部補と現場に急行する。

現場となったバーは、I市の都市部にある。
《BAR Continent》‥その薄暗い店内に、人型の白線はあった。

三田村「どう思う？舞草。」
舞草「‥俺に聞かれても困りますね。」

あまり広くない店内に、捜査員がひしめいている。
影が多い店内の壁には、オーナーなのか緑色の蝶ネクタイをした男の写真がいくつもある。

どうやら、被害者はカウンターでカクテルを飲んでいる最中に倒れたらしい。

三田村「殺されたのは、千野 真理《センノ マリ》25歳。女性。」
「職場の仲間と飲みに来ていたそうだ。」
「目撃者は、そこのカウンターにあるカクテルを飲んでいたら、突然苦しみだしたと証言している。」
舞草「と言う事は、カクテルに毒が‥？」
三田村「そうかもしれんな‥ま、今 鑑識の結果を待ってる所だ。」
「テーブルの周りにあった物は一通り鑑識に調べて貰った後だから、勝手に触っていいぞ。」

カウンターの上にあったのは‥
赤いカクテル、何かの小瓶、チョコレート、携帯電話、そして被害者の鞄‥。
‥隣のイスの前には、カクテルが数個置きっ放しだ。

舞草「このカクテルは‥何て言うんですかね？」
三田村「さぁな。マティーニじゃないのは分かるが。」
舞草「逆に何でそれだけ分かるんですか‥。」

？？「それは‥ブラッディ・マリーです。」

振り返ると、4人の男女がテーブル席に座っていた。

三田村「‥あ。この4人が、事件の関係者だ。」
「どうも。Z県警の三田村と申します。」
舞草「舞草です。」

増田「増田 角輝《マスダ スミテル》と申します。」
「《BAR Continent》のバーテン兼オーナーをしております。」

緑色の蝶ネクタイに、ちょびヒゲ。これぞマスターって感じだな。
‥先程の声は、この人か。壁の写真の男もこの人だ。

九辺「九辺 川緒《ココノベ カワオ》です。」
「千野さんは先輩で‥ここのバーにも、よく来ていました。」

まだ新入社員なのか、スーツも新しい。

満幡「‥満幡 初須木《ミツハタ ハズキ》です。」
「‥真理とは‥ずっと親友で‥。」
「あの時も隣に居たのに‥。どうして‥。」

そう言うと、彼女は泣き崩れてしまった。
‥よっぽどショックなんだろう‥。

円賀「‥円賀 利田《マドガ トシダ》」
「こいつら3人の上司ですよ。」
「‥いや、もう2人か。へへへ。」

相当酔っているのか、呂律が怪しい。
顔もかなり赤く、皺が多く角ばった顔は蟹の様だった。

九辺「‥部長、言い過ぎです。」
円賀「おっとっと。怖いねぇ。へへへ。」


三田村「‥じゃあ、事件の時の事を証言してもらえますか。」
「‥できれば、現場を再現して頂けると分かり易いのですが。」

4人が、事件の当時座っていた席に移動する。
カウンター席には、満幡と‥被害者役の俺。
背後のテーブル席には、九辺と円賀が座る。

九辺「まず、全員が各々カクテルを頼みました。」
増田「‥はい。九辺様は、キューバリバーを。」
「満幡様は、マンハッタンを。円賀様は、マルガリータを。」
「そして‥千野様は、ブラッディ・マリーを。」

全員に、各々のカクテルが行き渡る。

満幡「‥ここで、ビタミン剤を飲みました。」
舞草「ビタミン剤？」
満幡「はい。真理が持ってたビタミン剤を、私もよく一緒に飲むんです。」

カウンターの上の小瓶は、今は空っぽだ。
写真によれば、灰色の錠剤が詰まっているらしい。

増田「その後、千野様はカクテルを一口お飲みになられました。」

グラスにカクテルの代わりの水を注ぎ、一口飲む。

九辺「‥その後、カクテルが美味しそうだったので、こっちにそのカクテルを回してもらいました。」

グラスを、背後のテーブル席に渡す。
渡すと、九辺と円賀が一口ずつ飲んだ。

舞草「カクテルの味‥どうでしたか？」
九辺「‥ええと‥美味しかったですよ。」

ちょびヒゲのバーテンを気にしての言葉だろう。
‥どうやら、彼の口には合わなかったらしい。

満幡「確か‥ここで川緒君に電話が掛かってきたんだよね？」
九辺「‥ああ、そうでしたね。」
三田村「ちなみに、電話のお相手は？」
九辺「‥か、彼女です。」
三田村「ほほぅ。それはそれは。‥それで、電話は何分程？」
九辺「ええと、ちょっと待って下さい。記録によれば‥‥約1分、ですね。」
三田村「その間、カクテルはどうでした？」
九辺「どうでしたと言われても‥電話してましたし。見てませんでしたね。」

円賀「その後、俺がトイレに行ったんだっけな。‥よいしょっと。」
舞草「いえいえ、今は行かなくてもいいんですよ！」
円賀「あ？そうか。こりゃ失敬。へへへ。」

満幡「部長がトイレに行ってる間に‥グラスはカウンターに戻りました。」
円賀「俺が戻ってきたら‥グラスはカウンターにあったからなぁ。」

九辺からグラスを受け取り、カウンター置く。
視界の隅に、銀色と茶色の物体が映った。

舞草「‥ところで、このチョコレートは？」
増田「ああ、それは私のです。」
「‥恥ずかしながら、大好物なもので。」
「千野様が、私の食べているチョコレートを見て、私にもちょうだい、と。」

ちょびヒゲを人差し指でポリポリと掻く。
今 ここにあるのは同じ形の物なんだろう。

九辺「その後‥。先輩はカクテルを一口飲んで‥苦しみだしました。」
「そして、先輩は‥そのまま‥‥。」
三田村「‥なるほど。ご協力、ありがとうございました。」
「他に、何か気付かれた事は無いでしょうか？」

増田「‥そう言えば‥。」
三田村「何か、ありましたか？」
増田「いえ、大した事ではないんですけどね。」
「以前、私の事を「赤い蝶ネクタイのマスター」と言っていたのを小耳に挟みまして。」
「そう言えば、1度も名乗った事は無かったなぁと。」

被害者の携帯にも、《BAR Continent（赤蝶ネクタイのマスターの店）》と番号が記録してあった。

‥1度考えを整理しようと、バーの入り口近くのソファに移動する。
‥と、突然 デフォルトの着信メロディが重い空気の店内に響いた。

三田村「‥おっと。失礼。‥もしもし。」
「‥何？‥本当か？‥ああ。分かった。ご苦労さん。」
「‥鑑識の結果が、今入った。‥カクテル、チョコレート、ビタミン剤‥。」
「どの持ち物にも、毒は発見できなかったらしい。」

‥何だって！？‥‥そんな、馬鹿な‥。

その時、俺の頭に一筋の光が走った。

舞草「あっ！」
三田村「どうした！？」
舞草「‥わかりました！」
「三田村警部補！あの人を尋問して下さい！」


さて、千野 真理を毒殺した犯人は誰なんだろうか？
そして、殺害した方法とは‥？