『超能力の存在を証明できた人には
　賞金1億円を与える』
このように公言している私には
毎日のように怪しげな客が訪ねてくる。
今日の客は山田と名乗る男。
「ロシアの超能力者ウラジミール・ヌベク氏に
　特別に依頼して来週日本と世界で起きる事件を
　未来視して書いてもらいました。これです。」
「拝見しましょう。」
しっかり封がしてある大きな封筒。中はまったく見えない。
「今は開けてはいけません。
　中を見ることで未来が変わってしまいます。
　一週間後にロシア語の翻訳者に開封させ和訳させてください。」
「ははは。その手は食いませんよ。
　中にはでたらめなロシア語が書いてあるだけですね。
　一週間後に日本語に訳すふりをして
　すでに起きた事件の話をするつもりでしょう。」
「トリックではありません。
　ロシア語の翻訳者はそちらでご用意ください。
　1週間後にまた伺います。
　それまでその封筒を厳重に保管しておいてください。」

私はロシア語翻訳のサービスを検索してみた。
個人または会社で５０くらい見つかった。
いやまてよ。
すでに山田はこれ全部を買収済みかもしれない。

６日後。
私はロシア語学科のある大学の中からサイコロで無作為に一校を選んだ。
曽根崎外語大学。
そして曽根崎外語大学のロシア語の教授・助教授からサイコロで無作為に一人選んだ。
菊田守　ロシア語科助教授。
菊田助教授に連絡をとりロシア語翻訳に長けた学生およびOBのリストを
作ってもらった。リストは約３千名分。
そこからさらにサイコロを何度か振って無作為に1人を選んだ。
曽根崎外語大学３年　滝野賢治。
滝野はもちろんプロの翻訳家ではない。
私が滝野を選んだ確率はざっと１００万分の１以下。
山田にも誰にも絶対に予測は不可能だった。
盗聴や尾行にも細心の注意をし、秘密裏に滝野に連絡をとり
ロシア語翻訳の依頼をした。
滝野にはこの依頼の件を秘密にすることを約束させ口外を禁じた。

そして次の日の早朝。
信頼できる運転手に命じて車で滝野を迎えに行かせた。
滝野は無事到着。尾行や監視などにも注意させたが何もなかった。
私と滝野はある一部屋に待機する。
免許証・学生証で確認する。滝野賢治本人だ。
翻訳作業のためのその部屋には机と椅子、
私が用意したロシア語の辞書と筆記用具と紙類しかない。
滝野の持っていた携帯など私物は私が預かった。
その部屋の様子は隣の部屋の窓から見ることができる。
２時間後山田が到着した。
山田の立会いのもと自室の金庫から封筒を取り出した。
この封筒には一週間誰も触れなかった。間違いない。
そこで初めて滝野を山田に会わせた。
滝野には未来予知とか予言だとかの話はしていない。
ただロシア語文の翻訳とだけ言ってある。
私の家には山田と通じているような家族や使用人はいない。
山田と滝野は初対面だったし、
この瞬間まで山田には翻訳者が誰か知る手段は絶対になかった。
「そちらの方が翻訳者ですか？
　滝野さん？はじめまして、よろしくお願いします。
　では滝野さんに封筒を渡してください。
　滝野さん、これからこの部屋で1人だけで
　封筒の中のロシア語を和訳してください。」
封筒は私が直接滝野に手渡した。
山田には封筒を触らせない。
部屋は閉じられ、隣の部屋から私と山田が滝野を監視する。
滝野は封筒の封をやぶり中から数枚の紙を取り出し、
そこに書かれたロシア語をじっくり読み出した。
滝野は時折辞書を使いながら翻訳をすすめる。
そして約１時間後、翻訳が終わったと滝野が出てきた。

『オスロ空港で旅客機墜落・・・・・・・・
　埼玉で１７歳の少年が両親刺殺・・・・・・・・
　楽天田中投手完全試合・・・・・・・　　　　　』

滝野から渡された日本語文を読む。
すべてこの５日以内に起きたトップニュースだった。

私は封筒を手にとった。
封筒の中に入っていたロシア語の手書き文を自分で５０枚コピーした。
何十人もの翻訳者にコピーを直接見せてその場で和訳させた。
結果はどれも同じだった。
旅客機墜落・両親刺殺事件・田中投手完全試合。
その３項がロシア語でまちがいなく明記され、
それぞれのニュースの細かい内容まで書かれているという。

問題　この未来予知のトリックとは？

推理の内容は囁き欄で