こんばんは。いつも友人の火間と早戸刑事がお世話になっております。
私は栗栖　帝と申します。以前あった出来事をご紹介します。

私と早戸は火間の別荘に招待された。
元々、彼の祖父の持ち家で、長期休暇のときによく遊びに使わせてもらったペンションだ。
最近宿泊客も少なくなり建物も古くなったため取り壊す事になったらしく、その前にもう一度泊まろうと言う事で早戸と私が呼ばれたわけだ。
今、火間の車でそのペンションに向かっている。雨がぽつぽつ降り出している。
「なあ火間。お前の爺さん、他にもからくり屋敷等持ってたよな？それはどうしたんだ？」
「欲しいって言う人達がいたので、売ったりしたよ。相続税の足しにしたさ。しかし変な家ばっかりだったなぁ。爺さんは結構危ない橋も渡ってたからそういう、いつでも逃げられる仕掛けみたいなのを作ったって言ってたけどな。」
「ふーん。そういや早戸はどうした？後で来るのか？」
「ああ、用事が出来て後で自力で来るとさ。さあ、ついたぞ。」

車を降り、久しぶりのペンションを眺める。相変わらず変わったペンションだ。
何しろ一階建てなのだが「長い」のだ。横と言うか縦と言うか何百mもある。
上空から見たらやたら縦棒の長い「Ｌ」の時に見える事だろう。

玄関から中に入る。廊下をしばらく歩くとドアが有りその先は共用スペースになっており、食堂、風呂、トイレがある。(トイレは各部屋にもある。)
「さて、とりあえず部屋に案内しよう。荷物を置きたいだろう。」
食堂を抜けると、廊下に出る。すぐに直角に右に曲がる。
つまり、「Ｌ」の縦棒の所に来るわけだが、廊下がまーっすぐ伸びている。
左は延々と壁が続き、その壁にはところどころぼこぼこと穴が空いている部分がある。
昔から空いているのだが直す気配がない。外まで繋がる穴ではないので放って置いてるのだろうか．
右は部屋のドアがずーっと並んでいる。何か眩暈を起こしそうな眺めである。
「なあ、火間。この家何部屋あるんだ？」
「知らん。数えた事も数える気もしない。そうそう、悪いんだが、手前の方の部屋から既に内装を剥がし始めてて奥の方の部屋しか空いてないんだ。我慢してくれ。」
突き当りの壁まで進む。
「じゃあ、この一番奥がお前の部屋だ。」
壁際のベッドの上に鞄を置き、廊下に出る。
「じゃ、栗栖。早とちり君が来るまでに夕食を作っておこう。」
「了解。」

１時間後。料理も終わったが、まだ早戸が来ない。
「遅いなぁ、早とちり君。先に食べてようか。」
と火間が言ったその時。プルルルル。と食堂の電話が鳴った。
「はい、もしもし。火間ですが？・・・早とちり君？！え！？奥の部屋？！おい！」
「どうした？！早戸がどうしたって！？」
「一番奥の部屋で何者かに襲われたらしい！行くぞ！」

私たちは廊下を突き当りまで走った。外はもう暗くなっている。雨はあがったようだ。
先頭の火間がドアを開ける。
室内は凄い事になっていた。部屋中赤いスプレーで意味不明なことが落書きされあちこち壁紙が破れ、窓ガラスも割れ、カーテンも引きちぎられ、そして壁際のベッドの上には早戸が胸を真っ赤に染め、横たわっていた・・・・
「栗栖。戻って警察に連絡しよう。」
その時にはまだ携帯も普及していなかったので、食堂に戻り電話をかけることになった。
「栗栖。悪いが玄関の鍵を確認して閉めておいてくれ。」
「わかった。」
玄関に行き、鍵を確認する。閉まっていることを確認し、食堂に戻る。
丁度連絡し終わったのか、火間が受話器を置いたところだった。
「栗栖。警察が来る前に確かめたい事がある。一緒に現場に行こう。」

また引き返し、突き当りの壁まで火間と歩く。　？
バタン！火間がドアを開ける。
「あれ・・・？どういうことだ・・・？」
何と、早戸の死体どころか一面赤く染められたペイントも消え、破れていた壁紙も直っているではないか！真っ赤になっていたベッドも何事も無かったかのようになり、鞄が乗っている。窓ガラスも割れていないしカーテンもきちんとある。さっき来た時から１０分もたってないというのに！
狐につままれたような気分で火間と食堂に戻る。
すると、何と早戸が食堂でご飯を食べているではないか！・・しかも血糊をつけたまま。
あっけに取られる私を見て大笑いする二人。
「すまんすまん。ちょっと悪戯をしてみた。この悪戯の仕組みがわかるか、栗栖？」
何だ。二人の狂言だったのか。
私はちょっと考えをまとめ答えた。
「ああ。変だ、と思ってたことがこれでわかった。全く手の込んだ事だ。」

さて、皆さんにはこの綺麗になった部屋の謎、解けますか？