ある朝、青山は勤務先に向かうために満員電車に乗り込んだ。
　電車は乗り込む人間を何とか車内に取り込み、駅を発車する。
　乗り込めたことにほっとしていた青山だが、ふと近くに女子高生が乗っていることに気付いた。
　痴漢冤罪に対して大きな嫌悪感を持っていた青山は、その場を離れようとする。しかし、ここで違和感を覚えた。
　その女子高生の臀部の辺りに、その女子高生のものとは思えない無骨で大きな手が蠢いていたためである。間違いなく痴漢だった。
　青山はその手の元を辿ろうとしたが、その前に手首を掴まれてしまう。そして、無慈悲な言葉が電車内に響く。
「この人、痴漢です！」
　青山は痴漢冤罪で私人逮捕を受けてしまった。

　次の駅で降ろされた青山は痴漢冤罪であることを訴えたが、女子高生は完全に青山を痴漢だと思い込んでいるようで話が通じない。
　青山は焦った。痴漢をしていない物的証拠などないし、本当の痴漢は既に逃げ果せているだろう。しかも、青山はその姿を確認していない。手掛かりが無骨な手だけでは探し出すのは不可能だ。
　また仮に後々無実だと判明しても社会的地位や信用に影響がある。それは下手すると私生活にも波及するかもしれない。　
　青山は、痴漢冤罪を主張し続けて長期間の拘留を余儀なくされた例があったことを思い出した。そして、その際の裁判費用が決して安くないことを。

　結局、青山は痴漢冤罪を免れることを諦めてしまった。
　しかし、驚くことにこの後すぐに青山は痴漢冤罪を免れることになった。

　その女子高生が間違いを認めたわけではないし、真犯人が名乗り出たわけでもない。
　電車内の映像が残っていたわけでもないし、真犯人の目撃者がいたわけでもない。痴漢冤罪を証明する証拠は残っていない。

　それでは、問題だ。
　青山が痴漢冤罪を免れたのは何故か？