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見抜かれざる嘘
難易度:★★  
?空蝉 2013/10/03 15:42
「先日起きた殺人事件を御存知ですね?」
部屋に入って来るなり、刑事は単刀直入に切り出した。
「御存知もなにも、僕の部下でしたから。知らない方がおかしいでしょう。」
刑事にソファーを進めながら、諸木竹丸は何でもない風に答えた。
「実はね、諸木さん。あなたに事件の容疑がかけられているのですよ」ソファーに腰を下ろし、刑事は言う。「つきましてはですねえ、諸木さん。一週間前の事件当時、被害者の死亡推定時刻である午後3時から4時までのあなたの行動を教えて欲しいのです」
「ふむ・・・・」何気なさを装いつつも、竹丸は慎重に答える。
というのも、今目の前にいるこの刑事は、相手の言葉の嘘を見抜くことで有名な男だったからだ。少しでも嘘を言おうものなら、たちどころに暴かれてしまうため、回答には慎重を要する。竹丸は心の中でしっかりと身構えつつ、口蓋を切った。
「詳細な時刻までは覚えていませんが、私がその時間帯にオフィスビルを訪れたのは確かです」
「いつもたくさんの段ボールや書類でごった返した、あの雑然としたビルですね」
「余計なお世話です」
「ああ、そういえば、たしかあなたはそこの所長でしたね。で、行ってから、被害者を殺したと?言うまでもないことですが、被害者がその時間帯にオフィスビルの会議室で殺されたことは、揺ぎ様のない事実ですよ」
「・・・・最後まで人の話を聞いて下さいよ。僕はその日はビルを片付けに行っただけです。それ以外はなにも際立ったことはしていません」
「でも、あなたは事件当時は休暇中だったはずだ。いくら散らかり放題のビルとはいえ、休みの日にわざわざ、職場を片付けに出向くもんですかねえ?」
「・・・・」
(妙だな)そこで刑事は考え込んだ。(諸木の言葉に嘘はない。しかし、この男が殺ったのは確かなはずなんだ。なのに、何故・・・)
「僕は何ひとつ、嘘は申していませんよ」不適な笑みを浮かべつつ、諸木は言う。「用が済んだなら、さっさと帰ってもらえますか?」

何故、諸木は刑事の嘘発見能力をやり過ごすことが出来たのだろう?
Answer 諸木のセリフ「僕はビルを片付けに行っただけです」の『ビル』とは人名だったのだ。ビル(=人)を片付けに(=殺しに)行ったのだ。
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