市内のマンションで『殺人事件』が起こったと通報があり、僕たちは現場へとやって来た。
　死因は、頭部を灰皿で殴られたことによる脳出血。
　哀れな被害者は、額から血を流して床に伏していた。青い絨毯は赤黒く染まり、その上に煙草や灰が散乱している……
　遺体に目が釘付けになっている僕の肩をポンと叩いたのは、上司であり、憧れの刑事でもある桂木警部だった。
「どうだ。何がわかる？」
　すぐには答えられず、あわてて頭の中で現場の状況をまとめたが、なかなか言葉が出ない。
「そうだな。ヒントは、あれだ」
　警部は遺体の傍らに落ちている十円玉ぐらいの包み紙を指差した。そのラベルには、『のど飴』とプリントされている。
「飴を食べている間に殺されたってことでしょうか。いや、でも……」
　もし飴玉を口に含んでいる途中に頭部を強く殴られたなら、声が押さえきれず、同時に吐き出してしまうのではないだろうか。――しかし、警部の言動を聞くに、これが単なるゴミとは思えない。
「ひょっとすると被害者は犯行が行われた後、飴玉を口に入れたということですか？」
　その通りと警部は頷いた。
「そう、被害者は犯行後の数分の間意識があり、その時飴玉を口に入れた。実際に遺体の口から甘い香りをした苺の飴玉が見つかったよ」
「しかし、一体何のために？」
「ダイイングメッセージ。だとしたらどうだ？」
　ダイイング……メッセージ！？
　まさか被害者は飴玉を口にいれたことで犯人を示したというのだろうか！？
「そう考えれば、最初に話を聞くべき容疑者は誰かわかるだろ」
　そう言って、警部は容疑者の名簿を差し出した。


●容疑者●

国風和正（くにかぜかずまさ）
被害者の友人。
金の貸し借りでもめていた。

室伏仁（むろふしじん）
被害者の隣人。
貸した小説を被害者が誤ってトイレに落としてしまい、怨みをもっていた。

高松幸福（たかまつこうふく）
被害者の麻雀仲間。
被害者との賭け麻雀で借金をし、被害者を恨んでいた。

吉祥天蔵（きちじょうてんぞう）
被害者の娘の交際相手。
被害者に結婚を反対されていた。


【推理！】
被害者が死ぬ間際に示した犯人は一体容疑者の中の誰でしょうか？
そして、ダイイングメッセージはどのような意味を持っていたのでしょうか？