被害者・渡部哲郎（副リーダー）
死因・後頭部打撲による殺害（転落死とも読める）
場所・富士山頂付近

そのような出来事が起こったのは、一月一日の朝方だ。冬富士登山同好会のメンバー六人は、富士山頂で初日の出を拝むため、過酷な冬富士を登っていた。
午前五時、頂上付近で無事初日の出を見ることが出来たメンバーに、リーダーの黒澤喜一は「身体を休める為に、三十分の休憩をする」と告げた。三十分後、一人だけ待ち合わせ場所の鳥居に来ない人物がいた。着用を義務付けているゴーグルと帽子を皆に外させると、渡部哲郎であることが分った。
渡部哲郎を発見したのは、数分後だ。彼は、富士の火口に、横たわっていた。黒澤喜一は、持っていた双眼鏡で覗いてみると、渡部哲郎の後頭部に、黒々とした染みがついているのに気付いた。血だ。恐らく、彼はもう死んでいる。
副リーダーである者が、誤って火口に落ちたとは考えにくい。つまり、誰かに殺されたのだ。
冬の富士山は、関係者以外立ち入り禁止になっている。つまり、犯人は今ここにいるメンバーの誰かだ。
そこで、黒澤喜一は四人のメンバーに、休憩中の三十分間、何をしていたのか聞いてみた。すると、明らかに不自然な発言をしている者がいた。それについて問い詰めると、その人物は泣き崩れ、罪を認めた。
さて、犯人は誰だ？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　金沢正平の証言
「僕は、初日の出を見た後、反対側のまだ残っている星空を見ていました。色んな星座があったなあ。あと、月とか。外でずっと、星を見ていました。太陽と星を一遍に見るのは、僕の夢だったので。はい？　寒くなかったのか、ですって？　寒さなんか忘れてましたよ」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　北村凛の証言
「太陽を見た後、直ぐに小屋の中に行きましたよ。私、すごい寒がりなので。ストーブを点けて、ゴーグルを外して横になっていました。別に野外でなければ、ゴーグルを外しても良いんでしたよね。そういえば、集合前にちらっと窓の外を見た時、上を見ている金沢さんの姿が目に入りました」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　阿佐ヶ谷駿の証言
「トイレへ猛ダッシュでしたね。寒すぎて、腹を壊しちゃったんですよ。用を足した後、扉を開けたら、丁度休憩終了の笛が鳴ったので、急いで走っていきました。しかし、トイレ代金を払うために手袋を外したせいで、指先が痛いですよ。支払金とか、硬貨じゃなくてカードにしたらどうですか？」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　阿部純也の証言
「疲れて、近くの岩場で横になっていましたよ。もう小屋に行くのも面倒くさくなったので。寒いのには、結構慣れているんです。青森で育ったので。え？　メンバーの中で一番若いのにだらしが無い、ですって？　リーダーが僕に色々荷物を持たせたからでしょうが！」