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難易度:★★★★
![]() ![]() 「ピアノの音がしたんだ」
「被害者の部屋から?」 「そう。全部で……12回。タ、タ、タッ…と言う3拍のリズムが4パターン聞こえたんだ」 ペンションの一室で唖者(発語障害)のピアニストが殺された。 犯行時刻ははっきりしており、証言は簡単に取ることができた。 なぜならその時間――被害者の部屋から楽曲とも手慣らしともとれぬ、しかし一定のリズムを持った不思議な旋律が聞こえてきたからだ。 「なあ幸嶋、一体、被害者は最後に何を弾こうとしたのかな?」 「もしかしたら、ダイイングメッセージと言う奴かね」 「まあ、そうだろうね。そう断定しよう。問題文はできるだけ短い方が、回答者には好かれるからね」 「そうなればもっとキャッチーなタイトルにすれば良かったんだ。 花岡君、今からでも遅くない。記事を編集して“ピアニスト探偵の華麗なる日常”にしよう」 いやだよ、と花岡が笑う。音楽を題材にしたクイズとは言え、彼はせいぜいピアノを少々たしなみ、その際困らぬ程度に楽譜を書けるだけだ。 また、ピアノと言ってもクラシックではなく、どちらかと言えばポップス向きだったし、ヘ音記号などよりもコードネーム(和音の構成を示した記号)のほうがありがたいと言うような男だった。 「そんなことより、その奇妙な演奏が鍵を握っているのなら――」 第一発見者である爺を見やる。ピアニストが殺されたと言う事で、探偵役の聞き込みを受けている彼もまた、音楽家なのだ。だから―― 「そうだね、説明しよう。メジャーセブンス(Maj7)コード…と言って、解るかね」 「ええ、解る設定のようですね」 「花岡君、君は探偵役だからいいがね。私にはそのコードとやらがよくわからない」 「ああ、説明しようか。コードネームが“Maj7”の時、弾くべき鍵盤は4音。 Cがドミソであることくらいは、多少でも楽器をやっていれば解るだろうし、 幾ら君でも、鍵盤がドレミファソラシの順に並んでいるなんてこと、改めて説明は要らないよね」 「Cがドミソ?どういうことだ」 「G線上のアリアって知ってます?」 「名前くらいなら」 「それでいいです。あの曲って、バイオリンのG線…つまりソの音の弦だけで弾けるからあのタイトルなんです」 「へえ」 「興味ない?ごめんね」 「花岡君、タメ口なのか敬語なのかキャラがはっきりしないんだが」 「まあいいじゃないですか、シリーズ化の予定は無いし、些細なことです。 つまり何が言いたいかってね、C音はドなの。G音はソなの。A音がラで、E音がミなの。 んで、コードネームで“C”って言ったら、ドを基本にした明るい和音のことを言うの。その和音ってのがドとミとソなのね」 「よく解らんが納得した。コードネーム“C”はそれだけでドミソの3音のことを示すんだな?」 「そうです。そんで、Maj7と言うのが付いて“CMaj7”になると、それに“シ”が加わって4音になります。ドミソシです」 「へえ」 「Maj7はコードの基本の音の半音下が、上にくっついて来るんだと思ってください」 「で?」 「ここから爺の証言です」 「はい、爺がしゃべりますよ。あの旋律は――“FMaj7”のコードが多かった」 「はいどうよ幸嶋、FMaj7。これも4音だな?」 爺が話を続ける。 「そうだな…1、3、4、7、10回目…これらがFMaj7だった」 「はいそれから?急いで、ここまででだいぶ行長くなっちゃったんだから」 「それからね、2、8、9回目は単音だったな。1つの鍵盤しか弾いていないと言う事だ」 「それは何の音?」 「ファか…シ…」 「はい次」 「急かすなあ。ええと、5、6回目は同じ3和音だったな。FMaj7の和音のうち最高音と最低音が使われていて、残る1音はシだった」 「ええとあと、11、12回目の和音は?」 「これがハッキリしなくてなあ」 「ハッキリしろよ」 「花岡君、キャラが安定していないよ」 「ええと、どちらにもラとミが使われていたが、11回目は2和音、12回目は3和音だったな」 「よし…ありがとう爺!それで十分だ」 「花岡君、この事件はどう言うことだね。何か、各方面に於いて」 「幸嶋さん、昨夜殺されたピアニストが残したこの旋律…これはダイイングメッセージだったのです」 「知ってるよ、言ったよ」 「この問題は誰が殺したとか動機とか手段とかどうでもいいんです。ただこのメッセージを当てろという話です、ハイ」 さて、被害者が最後に残したメッセージとは? なお、唖者と言う設定は問題の状況のための設定であり、特定人物を示唆、或いは障害者への差別を意図したものではないことを最後に記しておきます。
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