俺は八巻孝治。
アルバイトで高級マンションの夜間警備をしている。
深夜２時。定時巡回を終え警備員控室で夜食をとる。
さあカップ焼きそばを食べようとするタイミングで
焼きそばの精から携帯にメールが届く。

「今日の焼きそばは美味しい？　　焼きそばの精」

正体は分かっている。この上の部屋、２１１号室の弥生さんだ。
ホステスをしている弥生さんはいつも深夜に帰宅する。
一度彼女を待ち伏せしていた不審な男を俺が撃退してから
俺と弥生さんは仲良く話をするようになった。
弥生さんは店の余り物だといってサンドイッチだのフルーツだの
いろいろ食べ物を差し入れしてくれる。
近所のスーパーの月一の特売日にカップ麺を大量に
まとめ買いしている俺にとっては死ぬほどありがたい。

この焼きそばの精からのメールは
俺がカップラーメンやカップうどんを食べるときには絶対にこない。
俺がたまたまカップ焼きそばをつくり
今まさに食べようとする時にだけメールが届く。
定時巡回のあとは先にコーヒーを飲むこともあるし
トイレにいったりもする。
俺が夜食をとる時刻ってけっこうバラバラなのに。

警備員控室ではいつも俺は一人きりだ。
俺以外は警備員控室に入れない。
窓はなく外からは覗けない。
ドアはしっかり閉め施錠もしてある。
もちろん盗聴器も隠しカメラもない。
警備員控室内を撮っている監視カメラはない。
コンピュータのハッキングもクラッキングもない。

もちろん俺は焼きそばを作りながら
「ゆぅふぉ〜」などＣＭソングとか焼きそばの歌を
1人で歌ってたりはしてない。
「今から夜食で〜す」とチャットやブログなどもやってない。
俺は焼きそばにソースをかけるとすぐ食べだすから
焼きそばの匂いが上の部屋に届く暇もない。

いったい弥生さんはどうやって
俺が焼きそばを食べることがわかるのだろう？

推理は囁きで