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ビン・ボウ警部補の事件録・S『手紙師の死』
難易度:★★  
?空蝉 2012/11/05 13:41
 「それにしても寒いですねえ」中・流刑事が言った。「まだ11月なのに、この底冷えのするような寒さ」
 「まあ、高地だからな」ビン・ボウ警部補は、どうせこのあと、いつもの皮肉が出てくるのだろうな、と、諦観の構えを見せつつ、答える。
 「もっとも、ビン・ボウ警部補の財布の中よりかはマシですがね」
 案の定、ビン・ボウ警部補が予想していた科白を、中・流刑事が口にした。
 「ビン・ボウ警部補の財布の中には四季がないんですよね」利子刑事が追い討ちをかける。「常時冬に支配され、温かみのかけらも見出せない、極寒と荒涼の地。そこに生物の気配はなく、誰ひとりとして近寄ろうとしない、死の世界。そこが、ビン・ボウ警部補の財布の中という、空間領域の内部状態なのです」
 嗜虐心に満ちた二人の部下を無視し、ビン・ボウ警部補は先を歩く。
 三人は山道を行っていた。山道といっても別段険しい道ではなく、すぐ隣には車道も敷設され、舗装された、人の手による整備の行き届いた場所だった。
 「あ、見えて来ましたね」利子刑事が手庇を作りながら言った。その先には小さな集落が見えている。「あそこですね、今回の事件の舞台は」

 「殺されたのはリジー・コストさん。23歳。今年大学を卒業し、この『手紙工房』に就職。今朝、リジーさんが出勤してから遺体発見までの様子を、工房のオ−ナーが証言してくれています」先に現場に到着していたドル・ダカ刑事が、三人に事のあらましを説明している。
 『手紙工房』とは、文字通り、手紙を作る店である。
 集落の東に位置するこの店は、丸太造りの洒落た外観で、従業員はオーナーとリジー、ほか二人の店員の計四人だ。
 パソコンやインターネットの普及とともに、人が直に手紙を書き、送る頻度は減ってきている。そんな中、手紙の衰退に危惧の念を抱き、手紙文化の保護・維持を目的として始められた『手紙工房』は、ただでさえ人口の少ないこの集落においては当然、客数も少なく、常に赤字経営の状態が続いていた。
 仕事内容は、客である依頼人が、差出人(依頼人)の名前および住所、宛名、宛先、手紙の内容等を申し出て、それを工房の店員である手紙師たちが清書して投函するというものだ。これが仕事として成立している所以は、手紙師たちの書く字の素晴らしい技術にある。
 あらゆる書体をマスターした彼らは、普通の人には真似できない「美しい手紙」を作るプロだった。のみならず、封筒、便箋の選び方から、使用する筆記用具、貼り付ける切手にまでこだわる彼らの姿勢は、集落の住民たちの中のごく数人によって支持されている。
 「ふむ・・・・・・。では、ご主人、先行した捜査員には既に説明なさっておられるようで申し訳ないのですが、我々三人にも今一度、事件当時の様子をご説明願えますかな?」L字型のカウンターを前に、静かに横たえられたリジーの遺体を前に、ビン・ボウ警部補が対面するオーナーに促した。
 「はい・・・・・・」悲壮感もあらわに、オーナーは話し始めた。「今朝のことです。いつもながらに、とても寒い朝でした。普段のこの店の流れは、開店30分前の8時30分に私が来て店を開け、それから15〜20分後にほかの従業員が出勤してくるというスタイルなのですが、その日は、私が来て店を開けてすぐにリジーが出勤してきました。いつもと違う彼女の出勤スタイルに私がどうしたのだと訊くと、リジーは『急ぎの仕事があるから、すぐに向かわなくてはならない』と言い、乗ってきた自転車を放り出し、店に飛び込むやいなや、すぐに万年筆を手に、便箋に向かい始めました。それから彼女はものの10分で手紙を仕上げてしまうと、私に切手を取ってきてくれないかと頼みました。だから私は店の奥の事務室まで切手を取りに行ったのですが、切手を手に戻ってくると、リジーが、このカウンターの前に、胸をナイフで刺されて倒れていたのです!」
 「リジーさんは、どこで手紙を書かれていたのですか?」
 「リジーの作業場は二階にあるのですが、その日は、今言ったように『急ぎの仕事』だったためか、カウンターを使っていました」
 「その、急ぎの仕事に関してですが、いったいどういう理由で急ぎだったのか、ご存知ありませんか?」
 「申し訳ないのですが、彼女に聞きそびれていまして、私は存じないのです・・・・・・。あ、でも、彼女がしたためていた手紙ならありますよ」
 「見せてください」
 『手紙工房』オーナーは、懐からリジーの書いていたという手紙を、便箋も含めて取り出して、ビン・ボウ警部補に渡した。
 「ふむ、完成しているようですな。差出人はグレッグ・カルテル。宛名はウラブレー・マズシーか」封筒を確認したビン・ボウ警部補は、続けて中身を取り出した。「綺麗な字ですね。さすが、プロだけある。ところで・・・・・・」ビン・ボウ警部補はリジーの遺体に目をやった。「先ほどから思っていたのですが、どうも、この店の待遇は芳しくないようですな」
 「は・・・・・・どういうことでしょう?」主人の顔に困惑の色が浮かんだ。
 「あなたの衣類の寂れた感じもさることながら――」
 「いや、そういうことはビン・ボウ警部補にだけは言われたくないと思いますが」中・流刑事が横槍を入れたが、ビン・ボウ警部補は無視して続ける。
 「彼女の、リジーさんの服にいたっては、さらにひどい。こんな薄着で、この季節に・・・・・・」
 「そこは私も苦しいところです」主人は申し訳なさそうに言う。「ただでさえ赤字経営なので、食っていく程度の給与しか出せないのです。でも、手紙師たちは、仕事のやりがいを優先してくれて、安月給にもかかわらず頑張ってくれていました。特にリジーなんかは、貯金もなく、『はやくお金を貯めて手袋やマフラー、ふわふわのコートが買いたい』なんて言ってましたから、本当に気の毒でね。自転車で30分もかかる自宅から店までの道のりを、彼女はこんなに薄着で、通いつめてくれていたんです」
 どれだけ物悲しい顔を作ろうとも、その目からは決して涙がこぼれることはない・・・・・・。
 そんな主人の様子を見つめながら、ビン・ボウ警部補は鋭く言い放つ。「あなたの証言には、少しおかしいところがあります」
 
 ビン・ボウ警部補の推理とは?
Answer「ご主人、あなたの証言では、リジーさんは手袋、マフラー、コートなどの防寒具を持っていないという。そして彼女は自転車通勤で、この底冷えのするような気候の中、30分もかけて店に通っていた・・・・・・。
 マフラーやコートなどはともかく、手袋をしていないとすれば、店に着いた時、当然、手がかじかんでいたはずです。にも関わらず、あなたの証言によれば、彼女は、『すぐに』手紙の作成に入ったという。しかも、完成された手紙の字は、とても綺麗でした。
 手がかじかんでいる状態で綺麗な字が書けるとは、私には思えないのです」
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