俺が森の中を歩いていると、前から女が走ってきた。
「助けて下さい！お願いします！」
そう言って俺の体にすがりついてくる。続いて何人かの男達が現われた。
「何だ貴様は！俺達の邪魔をしようってのか！」
俺は黙って女を男達の方へ突き飛ばした。
「そんな！」
「へっ。話しが分かるじゃねえか。さっさと行きな」
「いやー！誰か助けてー」
俺は後ろを振り返ることなく先を急ぐ。

町に着いたのは日が沈もうとしている頃だった。
入国手続きをして道を歩いていると、横から飛び出してきた少女がぶつかってきた。
「きゃっ！ごめんなさい」
俺は少女を突き飛ばすと宿屋を探した。

「おいおやじ。いくらだ」
「へ、へい。一泊１０ゴールドでございます」
「高いな。滅多に見られない芸を披露してやるから半額にまけろ」
俺は目にも止まらぬ速さで剣を抜くと貧相なおやじの首に突きつけた。
「ひぃっ！わ、分かりました。５ゴールドで結構でございます」
銭を放り投げると部屋の鍵を受け取る。
近くに温泉があるというので部屋に寄ってから行ってみることにする。

脱衣所で服を籠に入れ、タオル一つだけを持って中に入る。
ゆっくりと湯につかって部屋に戻ってみると、見知らぬ男が死んでいた。
どうしたものかと考えているとドタドタと足音が近づいてくる。
「警察だ！ここを開けろ！」
ちっ！どうやらはめられたようだ。
窓から逃げようかと思ったが、窓の外にも警官達が見える。
ここで暴れるのは得策ではないな。俺はおとなしく扉を開けた。

まずは取調べだろうと思っていたら、いきなり牢に入れられた。
看守に問いただしたところ、国王殺しの罪で近日中に処刑されるだろうとのことだった。
あいつは王だったのか！
「おい、俺は犯人じゃねえ。これは罠だ！」
「目撃者だっているんだ。観念しろ」
「目撃者だと！？そいつが犯人に決まってる！どこのどいつだ！」
「それは教えられぬ」
「くそっ！大体なんであんなところに王がいるんだ！おかしいだろ！」
「･･･国王はときどきお忍びで町にお出かけになっていたのだ」

このままでは処刑されてしまう。何とか無実を証明しなければ。
「おい。今日あの宿にいた奴らのことを教えろ」
「何？そんなことを聞いてどうするのだ？」
「いいからさっさと教えやがれ！」
「実名は教えられんが、仮名でよければ教えてやろう」

俺はその後もしつこく看守に食い下がり、いくつかの情報を入手した。
まとめてみよう。
王は16時に城にいたのが確認されている。
王が殺害されたのは17時から18時の間である。
15時の時点で宿にいたのは宿屋のおやじ(以下Y)のみ。
宿の周りには監視カメラがあり、人の出入りが記録されていた。
Aは15時30分に宿に入り、16時10分に外出、17時40分に宿に戻った。
Bは16時30分に宿に入り、17時20分に外出、18時10分に宿に戻った。
Cは16時50分に宿に入り、18時20分に外出。
Dは18時15分に宿に入った。
Eは18時25分に宿に来たが、すぐに出ていった。
俺が宿に入ったのは17時25分で、警官達がやってきたのは18時35分。
他に人の出入りはなく、大きな荷物を持っていた者もいなかった。
監視カメラに映らずに宿に出入りすることは不可能。
A,B,C,D,Eの宿の外での行動は把握できており、外で人を殺したりはしていない。
Yは17時から17時10分の間席を外しているが、
それ以外の時間はカメラに映っており不審な動きはなかった。
俺は17時30分に部屋を出て温泉に向かい、18時30分に死体を発見した。
戻ったときには鍵はかかっていたから密室殺人だな。
部屋の扉は俺が受け取った鍵かマスターキーでしか開けることはできず、
マスターキーはYが肌身離さず持っていた。
扉以外の場所から部屋に出入りした形跡はなかった。
この日、町に出入りしたのは俺一人だけだった。

王は誰に殺されたのか？
未知の人物が犯人ということはなく、共犯もいなかったとして考えてみよう。


彼はこの手がかりから犯人が誰なのかつきとめることに成功した。
彼は一体誰が犯人だと結論したのだろうか。
アルファベット一文字で答えてもらいたい。
その人物はどのように王を殺したのかも答えてほしい。

※各コメントに書いた補足や追加した条件をここに追記しておきます。
・「俺」が部屋をでたときには部屋に死体はなかったし、同じ部屋に戻ってきた。
・温泉も宿の一部であり、温泉に行くのに宿を出る必要はない。
・看守と話したのは王が殺された当日。書かれている時刻はすべて当日のもの。
・お城と宿は別々の場所にあり、宿を出ずに城に行くことはできない。
・Yは一度も宿を出ていない。
・看守の話には何一つ嘘や間違いはなかった。
・「国王」「王」「王様」はすべて同じ人物。
・監視カメラの時刻設定が狂っていたなんてこともなかった。
・犯人は飛び道具を使ったり、毒殺したりはしていない。
・異なる人物を同じ表記で書いたりはしていない。