彼は怠惰だが、自分の住家に不満を持っていた。密かに、自分のふところに金を貯めこんだりもした。
「食い物にされるだけの人生なんてまっぴらだ…！」
こんな汚い所に住んでいたくない。肥え太った自分の腹を割ってしまいたい…。
そう、貯めた込んだ金を取り出して、旅に出よう。

仲間に見つからないように出かけよう。食い物にされないように…仲間同士じゃ勝負しても勝てない。
見つかったら、「部費！部費！」と要求されるに違いないしな。

これだけは…どこに行こうと持ち続けていよう。こいつは、今のオレそのものなのだから…。

彼は旅に出た。そして、ある場所に辿りついた。

…彼は変わってしまった。面影は残しているものの、すっかり小さくなってしまった。
相変わらず食い物にされていたが、一方で彼に危害を加えようとする者には刺し違えるような危険さを
持ち合わせていた。
実際、彼が怒ると、一回り大きく見えたものだった。彼の幸運の恩恵に預かろうと、狙う者も多かったが。

食い物にはされてるが、一方的にはやられはしない。もしオレが女だったら、みんなイチコロだろうな。
素人が体目当てで手を出したら、命取りになるぜ？もし危険を逃れたとしても、タダではすまないぜ…。

…彼は、違和感を覚えていた。
「おかしい、この場にふさわしく変われた筈なのに。何かが間違っている。ここは俺の住処じゃない…」

…他国で生まれた仲間なら、ここで良かったのかもしれない。
だが日本で生まれたオレは、この場所で生きていくことができない…。
仮に生きていけたとしても、オレはもっと広いところに行きたい…。

彼は旅に出た。そして、ある場所に辿りついた。

「最初の家とは比べ物にならない…なんて広いんだ」
彼の行きたい場所は、まさにここだったのだろう。彼は、まるで水を得た魚のように…

ここは、変わってしまった彼にふさわしい住処だったのだが…
彼はまた変わってしまった。もう、元の面影はない。優雅さと、愛らしさを兼ね備えたその体…。
彼は人望も得たようです。彼を助けにはるばる遠くからやってくる者もいました。
人助けもし、多芸な彼。その知性に引かれる者も多い。そして彼はさらに遠く去っていく。彼は今何処に