ある日の午前１０時過ぎ、マンションの一室で着衣のまま浴槽の湯に浸けられ、シワシワになった男の死体が発見された。
男はその部屋の住人の貸増高利（かします・たかとし、3５才）で、死因は後頭部を鈍器で殴られたことによる頭蓋内出血であった。

第一発見者は預かった宅配物を届けに来たマンションの管理人で、訪ねて来たとき玄関ドアに鍵は掛かっていなかったという。
事実、玄関ドアの鍵は被害者の上着のポケットの中から発見された。

被害者が浸けられていた風呂は、いわゆる24時間風呂で、水温が４０℃に自動コントロールされていたため死亡時刻の推定は難航したが、最終的に前日の午後６時〜９時と推定された。

被害者の部屋にあった携帯電話に、殺害された日の午後６時５分と午後７時５５分に発信した履歴が残されていた。
調べてみると最初の電話は容疑者の一人のホステスへの電話であり、後の電話は２駅離れた町にあるレストランへの電話であった。
貸増は時々そのレストランで夕食をとっていたそうで、確かにその日の午後８時前に貸増から「今日も行くからよろしく」という予約の電話が入ったという。
予約の電話を受けたレストランの係員は、「間違いなく貸増様の声でした。」と証言した。
また携帯電話は確かに貸増のものであることが確認された。

また、ドアの郵便受けに、記入時刻が午後９時の宅配便の不在連絡票が入っていた。宅配業者を調べてみると「貸増さんのところへ配達に行ったのだがドアにカギが掛かっていて留守だったので、ドアの郵便受けに不在連絡票を入れ、管理人に荷物を預けて帰った。」ということだった。

参考人として事情聴取を受けたのは、貸増に対する殺害の動機を持っていると思われる以下の４人だが、いずれも事件当夜のアリバイを主張している。

　　東海　花巳智（とうかい・はなみち　25才、ホステス）
　　　「午後７時頃から店に出て午前２時頃までは店にいました。
　　　　店の外に出たのはお客さんに頼まれたたばこを買いに行った時くらいです。
　　　　確かに６時過ぎに貸増さんから借りているお金についての電話がありました。」

　　西山　犬二　（にしやま・けんじ　31才、美容師）
　　　「その日は午後７時から自宅で友人達と飲みながら麻雀をしていました。
　　　　あんまり遅くなると翌日の仕事が辛いので、１１時過ぎには切り上げましたが。
　　　　その間家の外には一歩も出ませんでしたよ。」

　　南野　辰美　（みなみの・たつみ　55才、主婦）　　
　　　「その日の午後７時から自宅に友人を招いて、誕生パーティを開いていました。
　　　　結構盛り上がって１１時過ぎまで騒いでいました。
　　　　その間家の外には出ませんでした。」

　　北原　虎雄　（きたはら・とらお　65才、無職）　　　
　　　「その日は被害者のマンション近くの居酒屋で午後７時から飲んでいました。
　　　　翌朝６時から釣りに行く約束があったので１１時過ぎには引き上げました。　　　
　　　　その間店の外には一歩も出ませんでした。」

更に、このマンションの玄関口は午後１０時から午前６時までの人の出入りは監視カメラで記録されるようになっているのだが、４人の姿は記録されていなかった。
（裏口はあるが普段は施錠されている。各階の非常口は外からは開けられない構造になっていて、内側から開けた場合でも管理人室に警報が鳴るようになっている。当日は異常はなかったという。)
　　　　　
４人の参考人の供述はすべて嘘ではないことは裏付け捜査で立証されているのだが、当局はこの４人の中に犯人がいると考えて更なる捜査を進めている。なお、４人は互いに面識がないことも確認されており、共犯関係はないと考えられている。

さて、最も疑わしいのは誰であろうか？　また、その根拠は？