Re: 「時の旅人」殺人事件 ☆ヒント5☆ ( No.53 ) |
- 日時: 2005/07/16 11:53
- 名前: HIKARU
- ―正解―
ホテルを飛び出して2時間。そろそろ日付が変わる頃。僕達は電車を降りると、全速力で時田邸に向かった。 羽月は足が速い。僕が着く頃には、和仁さんが扉を開けていた。 「何があったんです・・・? 羽月さんが血相を変えておられましたが」 「話はします。和仁さん、瑠璃さんと一緒にご家族の方を起こしてください。できるだけ急いで」 「あ、はぁ・・・」 僕は目で瑠璃さんに合図した。走り出した和仁さんの後に、瑠璃さんが続く。 僕は羽月を追う。行き先はわかりきっていた。 「羽月!」 「今救急車を呼んだところ」 扉を開け放った僕の耳に、冷静な言葉がかかった。羽月はしゃがんで、ベッドに横たわっている渡来理香の様子を見ていた。 「救急車ってことは、息があるんだな?」 僕は羽月の近くまで歩いた。羽月が、理香の腹部にタオルを当てている。理香自身も腹部を手で押さえているから、意識はあるようだ。 「ええ。大丈夫そうよ」 どうやら間に合ったらしい。僕は深く息をついた。
理香さんの看護を羽月に任せ、僕は応接室に入った。ソファに和仁さん、奈美絵さん、万次さん、瑠璃さんが座っている。 「こんな時間に、申し訳ありません」 「構わないが・・・理香さんはどうしたんだね?」 万次さんが、不安そうに質問してきた。 「襲われました。重症です」 「な・・・!?」 和仁さんが、腰を浮かせる。僕は彼を押し留めた。 「心配ないです。準看護師の免許を持っている羽月が手当てをしています。命に別状はないそうです」 「良かった・・・」 奈美絵さんが、ほっと息をつく。 「理香さんが明日――日付の上では今日、帰られるということでしたので、こんな時間にお邪魔したんです」 「・・・それでは・・・」 「はい。やっとわかりました」 あくまでゆっくり、僕は言った。三人の目が僕に向く。瑠璃さんは、資料の束を持って立ち上がった。 束を受け取りつつ、僕は言う。 「――この事件の真相が」
「これを見てください」 僕は机に、2つのDMのコピーを載せた。 「まず、血文字から読み解いてみます。和仁さん、由梨絵さんは動植物の研究をされていて、全国を巡っていらしたんですよね?」 「は、はい」 「由梨絵さんの部屋に、都道府県の資料がありますね。きっと彼女は、全国を旅するときに、行き先の県について、資料を使って調べていたのでしょう」 「それがどうかしたのか?」 「日本は、北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・四国・九州・沖縄の9つに分けられますね。これが《あいう9》に関わるのではないかと、僕は考えたんです」 僕はDMのコピーの余白に、ある事を書きながら話を続けた。 「《沖は王》と言うのはおそらく、《沖縄を琉球に置き換えろ》ということです。そして《あいう》は五十音順を示します。これに従って、9つの地方を五十音順に並べ替えると、こうなります」
関東 九州 近畿 四国 中国 中部 東北 北海道 琉球
「これがどうかしたのか?」 「DMの、パソコンで作られた文字を見てください。文脈と状況からして、デイゴが由梨絵さんを、キリが沙紀さんを、ライチョウが理香さんを、そしてアカマツが犯人を指し示しているのでしょう」 僕は一度言葉を切った。 「2枚目のDMに《花木鳥》とありますね。考えてみると、デイゴ、キリ、ライチョウ、アカマツは全て、花か木か鳥です。由梨絵さんの研究もあって、僕にはこのことが気になりました」 「それで?」 奈美絵さんが、DMとメモを見比べている。 「《都道府県》と《花木鳥》の関わりと言えば・・・」 「県花、県木、県鳥ですね」 和仁さんが、鋭く指摘した。 「はい。それから、《27》は《3×9》ですよね。地方が9つ。そして《花木鳥》――僕はここから、解読表の作成を連想しました」 「解読表・・・か?」 「はい。そして最後のキーワード《ABC》は、解読表の中を埋める文字がアルファベットであることを示していると思いました」 僕はメモの続きを書いた。
花木鳥 関東 ABC 九州 DEF 近畿 GHI 四国 JKL 中国 MNO 中部 PQR 東北 STU 北海 VWX 琉球 YZ
1人の表情が、微かに変化した。通常では見過ごしてしまうほどの些細な変化だったが、僕はその人に注意していたので、すぐにわかった。 「デイゴは、沖縄の県花なのでYです。由梨絵さんのYですね。そしてキリは岩手の県花なので、沙紀さんのS。ライチョウは、富山・長野・岐阜の県鳥で、理香さんのRです」 「では、アカマツは何処の県木なんですか?」 「アカマツは、岡山と山口の県木。つまり中国地方です」 僕は彼女を見据えた。 「奈美絵さん、あなたが犯人ですね?」 「・・・」 奈美絵さんは両手を強く握りしめ、下を向いたまま動かない。和仁さんは驚きに目を見開き、万次さんは苦しそうな表情になる。 「ここから先は僕の推測になります。もしかして由梨絵さんは、パソコンを使っていたのではありませんか?」 「は? はい、確かに由梨絵は、パソコンが普及し始めた当時からよく使用していましたが」 「由梨絵さんの部屋にあった都道府県資料は、あまり手がつけられていないようでした。由梨絵さんは都道府県の情報を、インターネットで調べていたのでしょう。ならば、何故不要な資料があるのか? それは、あれが奈美絵さんの姉妹の遺品だから、ですね?」 由梨絵の身体が揺れた。和仁さんが僕に向き直る。 「どうしてそれを・・・」 「資料の見開きに、時田符美絵という名前がありました。それと、古い血の跡のような物も。万次さん、符美絵さんは由梨絵さん達からいじめを受けていたのではないのですか?」 僕は、万次さんの表情に気づき、質問した。万次さんはゆっくり頷いた。 「はい・・・符美絵は、私の双子の妹です」 実際に答えたのは、万次さんではなく奈美絵さん本人だった。 「私と符美絵はよく、姉と沙紀さん、理香さんからいじめを受けていました。私達は本当は、姉――いえ、由梨絵の従兄弟だからです」 「従兄弟?」 「10年前、私の両親が死に、叔父の計らいでこの家に来たんです・・・」 奈美絵は拳を、白くなるほどに握り締めた。 「叔父がかばってくれることもありましたが、由梨絵達のいじめは本当にひどい物でした。符美絵は、そのせいで病気にかかって・・・」 「由梨絵達が、そんなことを・・・」 和仁さんが、呆然と呟いた。彼は全く気づいていなかったんだろう。 深い沈黙が、時田邸を包んだ。そしてすぐ、遠くに救急車のサイレンが聞こえてきた。
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