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■ コメント ( No.45 )
日時: 2016/08/14 07:19
名前: 紅巾

【解答編】

「どうだ、分かりそうか?」
 赤井が尋ねてくる。俺は今、赤井から頼まれてクイズを解いている。万引きをどのようにして行ったのかというクイズだ。
「多分な」
「本当か。一体どういうことなんだ」
「まあ落ち着いて。順を追って説明しよう」
 俺は赤井を宥めて落ち着かせた。まずはここから説明しようか。
「この問題の語り手は誰だと思う?」
 語り手というのは簡潔に言ってしまえば地の文を書いている人物のことである。
「え? それは作者じゃないのか」
「果たしてそうだろうか。確かに登場人物を全て三人称で呼んでいるし、一人の視点では把握できないであろう沢山の量の情報の描写がある」
「だったら……」
「まあ落ち着け」
 再び赤井を落ち着かせる。説明くらいゆっくりとさせてほしいものだ。
「これが作者の視点で描かれているとすれば、少しおかしい描写がある。いや、ないというべきか
「何が言いたいんだ」
万引きが起きたのはどこだと思う?」
「コンビニとかだろう」
 赤井が何を当たり前のことを、と言いたげな目で見る。しかし、
実は問題文中に舞台がどこかを示す単語はどこにも描かれていない
「そうなのか?」
 赤井は問題文を食い入るように見る。そして、
「本当だ。どこにもない」
 納得してくれたようだ。
「でも、舞台がどこか描かれていないのがそんなに不思議なのか?」
作者の視点で描かれているのなら、舞台になっているのがどこかくらいは描写されるのが普通だ。最初の文を見てくれ」
 俺は『青緑が自動ドアを通り店内に入った』という一文を指さす。
「作者視点ならば、ここを『青緑が自動ドアを通りコンビニの中に入った』と変えるだけでどこが舞台なのかを容易に描写できたはずだ。この方が、ただ『店内』と書くよりも分かりやすいと思わないか?」
「要するに、舞台を描写しない理由があったってことか?」
「そうだ。問題中の舞台がコンビニであることは自明の理で、わざわざ描写する必要のなかった人物とかね」
「店の中にいた人間とかか。だが、店内には青緑君と客が一人と店員の佐藤と田中の他には誰もいないはずだ。いないのに誰が三人称の視点に立てるんだ? 幽霊か?」
 赤井にしては良いところを突いている。
「視点の人物が誰かは俺にも分からない」
「なんだそりゃ。分かっているような口振りだったのに」
 赤井が拍子抜けしたような素振りをする。説明は最後まで聞いてほしいものだ。
「視点人物が他にいる事こそが重要なんだよ」
「へえ。というと?」
視点人物は確かに存在するのに、青緑達が働いていた時間、その場所には存在し得なかった。だったら、この視点の人物はどうして自分のいない時間帯の店内の様子を正確に描写することができたのか
「まさか」
 ようやく気付いたらしい。
「そう、防犯カメラに録画された映像だ。視点の人物は防犯カメラの過去の映像を見て、その映像を描写していたんだ」
「だが、地の文にはその当時の時刻まで描かれていた。現実の時刻と食い違うのは虚偽の描写にならないか? まさか映像を見ていた時刻と偶然合致したわけじゃ……」
「録画された映像には当時の時刻まで書かれているものだよ。それを描写したに過ぎない」
「なるほどな」
 赤井は合点がいったというように頻りに肯いている。まだ最後まで説明してないのだが。
「で、赤井どうだ。分かったか?」
 え、と赤井は戸惑った反応をする。そこが一番大事なのでは。
「このクイズの質問内容は何だった?」
 俺が助け舟を出すと、
「えーっと、『どうしてこの客は万引きすることができた?』だったな」
万引きはいつ行われたんだった?」
「地の文だと『防犯カメラの映像を見ている間』……あ」
 赤井も漸くこの事件の本質が見えてきたようだ。
「そういうことだ。『防犯カメラの映像を見ている間』というのは、青緑が見ている間のことでも、田中が見ている間のことでもない。過去の防犯カメラの映像を描写している視点人物がまさにその映像を見ている間に、万引きは発生したんだ」
「なら、クイズの質問の答えは……」
問題で描かれている映像、つまり青緑君たちが働いてる時間帯の録画映像を見ている間、店内が隙だらけだったからだろう」
「なんて間抜けな」
「そう言うな。万引きを捕まえるのは難しいんだ」
 俺はもう一度、問題文に目を通すと、
「今更だが、きっとこの問題の視点人物は店長あたりだろうね」
「何故そう思った?」
「店の過去の映像を確認する時点で、ある程度偉い立場の人間であることは想像に難くない」
「まあ、そうだな」
「それと、田中がその客を怪しんでいた描写があっただろう?」
 俺は問題文の一文を示す。『今トイレにいる客が長い間店内をうろうろしていたのを怪しんでいたらしい田中は』とある。
「田中は怪しい客を見かけたことを店長に報告したんだね。そして、その報告を受けた店長がその映像を確認していた」
「で、その間にまんまと万引きをされてしまったと」
「いくら怪しい客でも、犯罪の証拠がなければどうにもできないから仕方のないことさ。結局のところ万引きは発覚したわけだし、なるようになったということじゃないかな」
「田中が怪しんでいた客とその万引きをした人間が同一人物だったのは、ただの偶然か?」
「きっとその客は以前から万引きをしていたんじゃないかな。万引きは再犯率が高く、同じ人間が何度も行うものだし、どんどんエスカレートしていくことが多い。然して不思議なことではないんだよ」
「……俺には、万引きがやめられないことが、とても不思議に思えてならないがな」
「そうだな。だが、万引きの常習犯もよく言うんだ。『何故やめられないのかが分からない』とね」
「…………」
 暫時の間、沈黙が続く。やがて、赤井が言葉を発した。
「人間が何度も万引きを起こしてしまう謎も、簡単に解ければいいのにな」
「そうだな」
 俺は同意した。その謎は俺にも解けないと思いつつ。ただ、俺が一つだけ言えるとしたら、
「俺に言えることは、万引きなどするものではない、ということだな」
「当たり前だな」
 当たり前で何が悪いというのか。
「さて、青緑君のコンビニにでも行こうか。買い物をしに、ね」
「財布は右のポケットに入ってるぞ」
「よし、では行こう」
 俺達は悠々と探偵事務所を出た。