美女と手帳とメッセージ≫ No.1 ≫No. 2
pekoe
2008/09/24 11:01
*** 橙市内 某所 ***
店を出て、かの和服女性が出て行った方向に二人は走る。途中で真珠美が、はたと気付いたように言う。
「あ、でも私の前に入ったからって、その人のものだとは限らないよね?」
「…それは、まあ、たぶん大丈夫。だって、あの手帳…」
椿が言いかけたところで二人は大通りに大通りに出た。あの女性がいないかと左右を見渡したところで異状に気付く。数十メートル先の横断歩道に人だかりが出来ている。
もしかしたら、あの人だかりの中に目当ての人物がいるかも、と真珠美が言い、二人はその人だかりに近づく。
人だかりの原因はどうやら交通事故のようだ。さらに近づいたとき、椿が気付いた。
「あ、あの人…!」
二人が探していた人物がそこにいた。その人だかりの真ん中に、いたのだ。
車にはねられたのだろうか、とにかく怪我をしているようで、ぐったりとしていた。店の中で見たときにも色白だとは思ったが、今はさらに青白い顔色をしている。
椿が声をあげたことで、知り合いだと認識されたのだろうか、人だかりの中に比較的すんなりと入ることができ、和服の女性の側に寄る。
「あの、あの、この手帳…」
真珠美がずっと手に持っていた手帳を差し出す。この状況で手帳もないだろうと思う椿だったが、その手帳を認めてか、彼女は苦しそうにしながらも何事かを言おうと口を動かしている。しかし、近づいてくる救急車のサイレンの音で聞き取れない。何とか聞き取ろうと耳を近づけると、漸くその声が二人の耳に届いた。
「…あ…か……し……………」
ぱた、と彼女の手が、糸が切れたように落ちる。意識を失ってしまったのかもしれない。すぐに救急車が到着し、救急隊員が彼女を運んで行く。
再びサイレンを鳴らしながら救急車が去っていくのを、祈るような気持ちで見送る。
結局、真珠美の手の中に残されたままの手帳をぼんやりと眺めていると、周囲の人の声が耳に入ってきた。どうやら、目撃者が警察に状況を説明しているらしい。
「…女が二人で言い争ってて…」
「…そのあと、あの和服の女をもう一人の女が道路に突き飛ばしたんだよ…」
椿と真珠美は、顔を見合わせる。
「……殺人?」
「ってことは、あの最後の言葉…」
――『ダイイング・メッセージ』の言葉が二人の頭の中をよぎる。
「アカシア…?」
「私にはアカシヤに聞こえたけど…」
再び真珠美の手の中の手帳に視線を落とす。二人にとって、あの和服美女の情報はこれしかない。
(アドレス帳!)
ほぼ同時に二人はひらめき、真珠美は手帳の後ろに別冊で挟みこまれているアドレス帳を抜く。椿はアドレス帳を抜いたあとの手帳を預り、その最後のページを確認する。
『PERSONAL DATA
NAME:白峰虹海(N.SHIRAMINE)
ADDRESS:東京都×××……』
どうやら、これがこの手帳の主の名前らしい。
「まずは…兵庫の明石市の住所の人がいないか、よね?」
「うん。あとは、『明石さん』とかって名前の人とか…」
そうして二人で頭を突き合わせるようにして数十件分の住所を確認したが、記載されている住所はどれも関東近辺のものばかりで、明石市の住所のものは無かった。『明石』やそれに類する名前も記されていなかった。
「うーん、そんな上手くはいかないか…」
ふぅ、と深くため息をついた真珠美に対して、椿は何事かを考えている。
「ねえ、私たち、彼女があの喫茶店を出てからさほど時間を置かずに出てきたじゃない? ここだってあのお店の目と鼻の先よね? ってことは…」
「そっか! あの店に一緒に来ていた人とまだ一緒だった可能性が高いってことね?」
言うが早いか、真珠美は手帳をぱらぱらとめくり、今月のページを開く。
「今日の日付のところは…『市川,大谷,川崎,中村,松嶋/ランチ』…この中の誰か、ってことかしら?」
真珠美が言った名前のメモを取り、椿は先のアドレス帳を使い、それぞれのフルネームを調べる。
・ 市川実咲■■東京都在住
・ 大谷友恵■■東京都在住
・ 川崎莉香■■神奈川県在住
・ 中村寛子■■神奈川県在住
・ 松嶋やよい■千葉県在住
「そうね…、この中で誰かって言ったら、この人じゃないかな?」
椿は5人のうちの一人をはっきりと指し示した。
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pekoe 2008/09/24 11:01
店を出て、かの和服女性が出て行った方向に二人は走る。途中で真珠美が、はたと気付いたように言う。
「あ、でも私の前に入ったからって、その人のものだとは限らないよね?」
「…それは、まあ、たぶん大丈夫。だって、あの手帳…」
椿が言いかけたところで二人は大通りに大通りに出た。あの女性がいないかと左右を見渡したところで異状に気付く。数十メートル先の横断歩道に人だかりが出来ている。
もしかしたら、あの人だかりの中に目当ての人物がいるかも、と真珠美が言い、二人はその人だかりに近づく。
人だかりの原因はどうやら交通事故のようだ。さらに近づいたとき、椿が気付いた。
「あ、あの人…!」
二人が探していた人物がそこにいた。その人だかりの真ん中に、いたのだ。
車にはねられたのだろうか、とにかく怪我をしているようで、ぐったりとしていた。店の中で見たときにも色白だとは思ったが、今はさらに青白い顔色をしている。
椿が声をあげたことで、知り合いだと認識されたのだろうか、人だかりの中に比較的すんなりと入ることができ、和服の女性の側に寄る。
「あの、あの、この手帳…」
真珠美がずっと手に持っていた手帳を差し出す。この状況で手帳もないだろうと思う椿だったが、その手帳を認めてか、彼女は苦しそうにしながらも何事かを言おうと口を動かしている。しかし、近づいてくる救急車のサイレンの音で聞き取れない。何とか聞き取ろうと耳を近づけると、漸くその声が二人の耳に届いた。
「…あ…か……し……………」
ぱた、と彼女の手が、糸が切れたように落ちる。意識を失ってしまったのかもしれない。すぐに救急車が到着し、救急隊員が彼女を運んで行く。
再びサイレンを鳴らしながら救急車が去っていくのを、祈るような気持ちで見送る。
結局、真珠美の手の中に残されたままの手帳をぼんやりと眺めていると、周囲の人の声が耳に入ってきた。どうやら、目撃者が警察に状況を説明しているらしい。
「…女が二人で言い争ってて…」
「…そのあと、あの和服の女をもう一人の女が道路に突き飛ばしたんだよ…」
椿と真珠美は、顔を見合わせる。
「……殺人?」
「ってことは、あの最後の言葉…」
――『ダイイング・メッセージ』の言葉が二人の頭の中をよぎる。
「アカシア…?」
「私にはアカシヤに聞こえたけど…」
再び真珠美の手の中の手帳に視線を落とす。二人にとって、あの和服美女の情報はこれしかない。
(アドレス帳!)
ほぼ同時に二人はひらめき、真珠美は手帳の後ろに別冊で挟みこまれているアドレス帳を抜く。椿はアドレス帳を抜いたあとの手帳を預り、その最後のページを確認する。
『PERSONAL DATA
NAME:白峰虹海(N.SHIRAMINE)
ADDRESS:東京都×××……』
どうやら、これがこの手帳の主の名前らしい。
「まずは…兵庫の明石市の住所の人がいないか、よね?」
「うん。あとは、『明石さん』とかって名前の人とか…」
そうして二人で頭を突き合わせるようにして数十件分の住所を確認したが、記載されている住所はどれも関東近辺のものばかりで、明石市の住所のものは無かった。『明石』やそれに類する名前も記されていなかった。
「うーん、そんな上手くはいかないか…」
ふぅ、と深くため息をついた真珠美に対して、椿は何事かを考えている。
「ねえ、私たち、彼女があの喫茶店を出てからさほど時間を置かずに出てきたじゃない? ここだってあのお店の目と鼻の先よね? ってことは…」
「そっか! あの店に一緒に来ていた人とまだ一緒だった可能性が高いってことね?」
言うが早いか、真珠美は手帳をぱらぱらとめくり、今月のページを開く。
「今日の日付のところは…『市川,大谷,川崎,中村,松嶋/ランチ』…この中の誰か、ってことかしら?」
真珠美が言った名前のメモを取り、椿は先のアドレス帳を使い、それぞれのフルネームを調べる。
・ 市川実咲■■東京都在住
・ 大谷友恵■■東京都在住
・ 川崎莉香■■神奈川県在住
・ 中村寛子■■神奈川県在住
・ 松嶋やよい■千葉県在住
「そうね…、この中で誰かって言ったら、この人じゃないかな?」
椿は5人のうちの一人をはっきりと指し示した。
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