クイズ大陸



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痛ましき哉、五月の薔薇≫ No.1 ≫No. 2
?シーラ
問題の続きになります (^^)

***

そういうゴシップを喜々として話す先輩は、目が爛々と輝いていて、その表情を見るだけで私は頭痛がしてきたが、話の中に気になる点があるのは確かなので、試しに聞いてみることにした。
「発見者であるお姉さんについて、もう少し教えてもらえませんか?」
「いいわよ。確かすみれより七歳ぐらい年長で、容貌や体型は妹とあまり似ていなくて、割に大柄な女性だったそうよ。仕事を辞めて妹の付き人をやっていたのだけど、その前は銀座の帝都画廊に勤めていたとか。」
「帝都画廊……あそこは西洋絵画の老舗ですよね。お姉さんは美大卒業なのですか?」
「ううん、妹と同じ皐月女子大よ。ただ専攻は美術史だって聞いているわ。」
「そうすると、春野すみれが死んでいたバスタブの装飾だけど、もしかしてそれを行なったのはすみれ自身じゃなくて……?」
「ご明察!実はそれも全部姉がやったのよ。写真が届いた時点では分からなくて、後で発覚したんだけど……全くとんでもない話よね。自殺した妹にすぐ救急車を呼ぶでもなく、わざわざロングドレスを着せて、バスタブの中に運び入れて、水を張って花を浮かべて、周りに観葉植物を置いて、緑や茶色の布まで垂らして……いくら妹が小柄だったからってね……手伝った人はいなかったみたいだし。」
「そんなにまでして、しかもその写真をマスコミに送りつけるとは……」
本当に唖然とする話だ。しかし傍から見ればどんなに奇妙な行動だって、当人には当人なりの理屈が何かあった筈……そんなことを考えていたら、本日のパスタが運ばれてきたので、私たちは暫く食べる方に専念した。

食後のドルチェが運ばれてくるのを待ちつつ、先ほどの思考を頭の中で反芻する。
「そう言えば、遺書は走り書き程度だったそうですね?内容は分かりますか?」
「ええ、『みんなあいつのせいだ!』っていう言葉が、ノートに書かれていたんですって。すみれの筆跡は特徴があるから、彼女が書いたのは間違いないみたい。」
「でもそれだと、遺書と言えるかどうかは微妙ですね。『あいつ』が誰だかもハッキリ書かれてないんですね?他にはなかったんですか?」
「そう言えば、改まった遺書のようなものはなかったようよ。」
「ということは、姉がこっそり処分した可能性もありますね。例えば姉自身、或いは他の人物が原因で自殺したということを隠したかったとか……」
「うーん、可能性はあるけど、姉が白状しない限り確認する術はないんじゃない?それに少なくとも、姉とのトラブルは表面に出てきていないわ。」
「まあそうですね。……じゃあ処分したかどうかは今は措いて、もしかしてお姉さんは、妹を死に追い込んだ人物を勝手に特定して、告発しようとしたのかしら?」
「そう、それ!……彼女はその頃どうやらノイローゼ気味だったんですって。人間関係でいろいろトラブルを抱えていてね……」
と、大木さんは五人の名前を挙げた。
「まず姉妹の父親、といっても義父なんだけど、春田泰蔵ね。実父が病死した後母親が再婚した相手で、自己中心的なワンマン親父ってとこかしら。すみれが芸能活動をすることを快く思っていなかったみたい。
それから、当時すみれが付き合っていた恋人ね。山村弘っていったかしら、食品会社の社長の御曹司で、父親の命により近々アメリカ留学が決まっていて、別れる別れないでモメていたみたい。
しかもその会社は、すみれたちの実父が重役を勤めていた会社の商売敵で、実父が病死したのは、そことのシェア争いに敗れた心労で……という説もあるくらいよ。
そうそう、ライバルと言えば、あの西部真理ね。今は貫禄がついてるけど、当時は売り出し中の新進女優で、役を巡って争っていたらしいわ。
後はプロダクションの佐川社長。恋人と別れるよう何度もすみれに注意していたようよ。その他にも若手の女優の売り出しに力を入れだして、すみれを見限りつつあった、とか。
そう言えば、映画監督の浅井新ともトラブルがあったらしいわ。今はもうヨボヨボだけど、当時はスケベ親父で、作品に出演したすみれに迫っていたとかいなかったとか。
……こんなところなんだけど、どう?姉は一体誰を妹の自殺の原因と考えて、こんな手間をかけて告発しようとしたのかしらね?」
「それはもう○○で決まりですよね?……今までの話の内容からすれば……」
「あら、どうして?……言っておきますけど、山勘はダメよ。」
「だって、『五月の薔薇』でしょう?……それから、水に浮いていたバラは、取りあえず家に飾ってあったものを浮かべたと思うのですけど。本当だったら、バラではなくてデージーとか三色すみれ、忘れな草にしたかった筈。柳の枝も欲しかったでしょうね……違いますか?」
と言ったら先輩はがっかりした表情で、
「あーあ、また今回もアッサリ解かれちゃった……面白くなーいなあ。」とのたもうて、グラスに残っていたワインを一気に飲み干したのであった。

***

さて、私(深山紅)は春田優子が一体誰を告発しようとしたと考えたのでしょうか?
根拠も併せてお答え下さい。

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