クイズ大陸



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痛ましき哉、五月の薔薇 ≫No. 1
?シーラ 囁き
<はじめに>
今回の出題は「犯人はカラス!?」「高砂や…」「天球のハルモニア〜プレリュード〜」に続く四問目になります。
本問の主人公である私=深山紅(みやま・くれない)は、一問目と二問目で既に登場しておりますが、念のため彼女について簡単な紹介を記しておきますと、地方都市の山峰市出身で大学進学のため上京、国文科を卒業した後は都内の出版社で編集の仕事をしているという設定になっております。

***

「それじゃ、再会を祝して、乾杯!」
「乾杯!どうもお久しぶりです。」
大学の先輩である大木美和子…大木さんは、半年前に同業他社の文芸部門から雑誌部門に異動し、現在は総合雑誌の編集に携わっている。
馴染みのトラットリアで美味しい料理を味わいながら、自身や知人の近況、また最近面白く思った本や映画についてなど四方山話に花を咲かせていたが、ふと話題が途切れた際、意味有りげな微笑みを浮かべている先輩と目が合ってしまった。
(しまった……)と思う間もなく、
「今日はね、深山さんに一つ謎を解いてもらおうと思って。」
(来たーーー!)大木さんは昔からそういうことが好きな人だったのだ。
「またですか〜?もう変なネタは止めてくださいね。」
「今日のは取っておきよ!!何と言ったって、あの<春野すみれ>の死に纏わる謎なのだから。」
「へーえ、それはそれは……」

春野すみれとは、20数年前に自殺した若手女優で、今でも一部のマニアの間でカルト的な人気がある。大学時代に<地球座>という、主に古典劇を上演する学生劇団で活躍していたところをスカウトされ、出演した青春ドラマが大ヒットして一躍時の人になったのだが、勿論当時私は子供だったので、リアルタイムで彼女をTVで観たわけではなかったし、その後も芸能界には一向に興味がないから、彼女の死について知っていることは殆どなかった。
「深山さんも『サタデー』っていう写真週刊誌、名前ぐらい聞いたことあるでしょ?当時そこの編集部にいたのが、今の私の上司でね、この間聞いちゃったのよ〜、いやあ、全く驚くべき話でね……」
といって、先輩は語り始めた。

1983年2月×日昼頃、春野すみれが自殺したという一報がマスコミに入ると、報道各社は騒然となった。
警察の発表では、「当日朝に同居の姉が浴室で春野すみれの死体を発見。酒と睡眠薬を大量に摂取したことによる自殺と見られる。死亡推定時刻は数時間前。遺書は走り書き程度。」ということしか分からず、各社は先を争って情報を得ようとした。だが第一発見者である姉が、警察の事情聴取後行方をくらましたので、なかなか詳細が掴めずにいた。
ところがその翌日、何と『サタデー』編集部にすみれの遺体を写した写真が送られてきたのだった。

「ポラロイドカメラで撮った写真なんだけど、それが異様な光景でね、遺体そのものは、こちらから見て頭を左にしてバスタブに仰向けに浮いていたんだけど、その周りが、何と言ったらいいのか……ある種の装飾が施されていたのよ。」
「装飾ですか?」
「そう。バスタブの周りには、観葉植物の鉢が幾つも、出来るだけそれを隠すような位置においてあって、しかも中には暗い茶色と緑色の布が敷かれて、余った部分は外側に垂らしていたの。つまり、風呂場の壁やバスタブの白い地が殆ど見えないようになっていたのだって。中は水がはってあり、白いバラが花の部分だけ幾つか浮いていたの。またすみれの服装も、普段着ではなくて舞台衣装のようなロングドレスだったんだけど、胸のところに銀糸の刺繍がある、アンティーク風なデザインのものを着ていたのですって。そうそう、手にも何か花を持っていたとか……」
「……一体誰がその写真を送ってきたのでしょう?」
「実は姉だったのよ。春田優子。……しかも写真には、『五月の薔薇』とタイトルがついていたの。」
「『五月の薔薇』…なるほど。でも妹の遺体の写真を、よりにもよって『サタデー』編集部に送りつけるなんて、普通ではちょっと考えられませんけど、一体どういうつもりで……?」
「ふふ、そこが今日の問題なのよ。すみれの姉は、何故そんな真似をしたのか……」
 
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