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pekoe
*** 二葉家にて 〜幕が下りたその後で〜
(pekoeの言い訳) ***
桜を寝かせた部屋を後にして、1階へと下りてきた椿は、おもむろに冷蔵庫を開けた。桜の寝ている間にいただき物のチョコレートを食べようという魂胆だ。
少し変わった形をしたそのチョコレートは、ほんのりアルコールの香りのする、桜にはまだ早いちょっぴり大人の味なのだ。
よく冷えたチョコレートとミネラルウォーターを持って椿はリビングへ移動する。
「ヴーヴーヴー…」
マナーモードのままの携帯がポケットの中で鳴る。取り出してみると「黒木真珠美」の文字とともに真珠美の写真がディスプレイに光っていた。
「もしもーし、黒木でーす! 桜ちゃん寝ちゃったー?」
通話ボタンを押すなり元気の良い真珠美の声が耳に響く。椿は苦笑しながら、これに応える。
「寝たよー。っていうか桜ね、せっかく真珠美からの暗号教えてあげようと思ったのに、あんまり聞いてなかったみたいなんだけど」
言いながらミネラルウォーターをガラスのコップに注ぐ。チョコレートは室温に戻すため、少し置いておくつもりだ。
「少し難しい話もあったから仕方ないんじゃない? ま、誰かさんとしては、当初『扇町駅』を正解にしたかったみたいなんだけど」
「ああ、正親町天皇(106代・おおぎまちてんのう)のことね。でもちょっとマニアックすぎない?」
言ってから椿は、コクリとコップの水を飲んで、ソファに身を預ける。
「それで誰かさんも問題を変えたみたいね。でも、問題としてはそのまま残した、と」
聞きながらコップを照明にかざすようにして眺める。わずかに緑がかったそのガラスが照明にきらめく様子を見るのが椿は好きだった。
「まあ、結果的には良かったんじゃない? 100代目に問題を変えたことで約分して4/5になって、待ち合わせの日も決まったし締め切りに追われる辛さも身にしみただろうし」
背を起こし、今度はチョコレートに手をのばし、椿は続けて話す。
「でも今回、何かちょっと…、変じゃなかった?」
「ん? 文章の推敲が甘いって? 本人も反省しているみたいよ。あんまり気になるところは、ちょこちょこ直していたみたいだし(ホントすんません…)」
「わかっているならいいんだけど…」
しゃべりながら、中にあるチョコレートの中で一番小さい、巻貝の形をしたチョコレートを手にとる。
「このコーナーまで手を抜かれちゃたまらないからね〜」
チョコレートを口に放り込もうとしたその瞬間に、リビングのドアがギイと開いた。
開いたドアの向こうには、ウラミのこもった視線を投げるパジャマ姿の桜がいた。
「つーちゃん、ひとりでチョコたべてる…、ズルイ…」
「うっ…」
そのじとーっと見つめてくる姿に思わず、ポトっとチョコレートを落としてしまった。
どうやら一人でチョコレートを食べようとした言い訳は長くかかりそうだ。
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pekoe
(pekoeの言い訳) ***
桜を寝かせた部屋を後にして、1階へと下りてきた椿は、おもむろに冷蔵庫を開けた。桜の寝ている間にいただき物のチョコレートを食べようという魂胆だ。
少し変わった形をしたそのチョコレートは、ほんのりアルコールの香りのする、桜にはまだ早いちょっぴり大人の味なのだ。
よく冷えたチョコレートとミネラルウォーターを持って椿はリビングへ移動する。
「ヴーヴーヴー…」
マナーモードのままの携帯がポケットの中で鳴る。取り出してみると「黒木真珠美」の文字とともに真珠美の写真がディスプレイに光っていた。
「もしもーし、黒木でーす! 桜ちゃん寝ちゃったー?」
通話ボタンを押すなり元気の良い真珠美の声が耳に響く。椿は苦笑しながら、これに応える。
「寝たよー。っていうか桜ね、せっかく真珠美からの暗号教えてあげようと思ったのに、あんまり聞いてなかったみたいなんだけど」
言いながらミネラルウォーターをガラスのコップに注ぐ。チョコレートは室温に戻すため、少し置いておくつもりだ。
「少し難しい話もあったから仕方ないんじゃない? ま、誰かさんとしては、当初『扇町駅』を正解にしたかったみたいなんだけど」
「ああ、正親町天皇(106代・おおぎまちてんのう)のことね。でもちょっとマニアックすぎない?」
言ってから椿は、コクリとコップの水を飲んで、ソファに身を預ける。
「それで誰かさんも問題を変えたみたいね。でも、問題としてはそのまま残した、と」
聞きながらコップを照明にかざすようにして眺める。わずかに緑がかったそのガラスが照明にきらめく様子を見るのが椿は好きだった。
「まあ、結果的には良かったんじゃない? 100代目に問題を変えたことで約分して4/5になって、待ち合わせの日も決まったし締め切りに追われる辛さも身にしみただろうし」
背を起こし、今度はチョコレートに手をのばし、椿は続けて話す。
「でも今回、何かちょっと…、変じゃなかった?」
「ん? 文章の推敲が甘いって? 本人も反省しているみたいよ。あんまり気になるところは、ちょこちょこ直していたみたいだし(ホントすんません…)」
「わかっているならいいんだけど…」
しゃべりながら、中にあるチョコレートの中で一番小さい、巻貝の形をしたチョコレートを手にとる。
「このコーナーまで手を抜かれちゃたまらないからね〜」
チョコレートを口に放り込もうとしたその瞬間に、リビングのドアがギイと開いた。
開いたドアの向こうには、ウラミのこもった視線を投げるパジャマ姿の桜がいた。
「つーちゃん、ひとりでチョコたべてる…、ズルイ…」
「うっ…」
そのじとーっと見つめてくる姿に思わず、ポトっとチョコレートを落としてしまった。
どうやら一人でチョコレートを食べようとした言い訳は長くかかりそうだ。
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