No. 52≫ No.53 ≫No. 54
カノン
*********************************************************************************************
一瞬間を置いてセシリアさんはまた英語で話し始めた。それを再びクリスが訳し、会話が続く。
「正体? 一体何のことを言ってるのかしら? 正体も何も、私はただの依頼人ですよ」
「ただの依頼人さんが、日本語全く分からないフリする必要あるんッスかねェ?」
「あらごめんなさい。まだ言ってませんでしたね。向こうの大学で日本語を勉強していたので、
一応聞き取りは多少できるんです。でも、こういう込み入った内容を話す迄はまだできなくて……」
向こうで勉強しててリスニングはできる……ふーん、そう来るか。まぁ予想通りの反応だけど。
「そう言えば、この部屋に入って来た時、セシリアさんは真っ先にキヨに話しかけましたよね?
明らかに外人顔のクリスも同じ部屋にいたのに。普通、外国語に自信がなければ、少しでも
自分の言葉が通じそうな相手に話しかけたくなるものじゃないですか? それに、勉強していたなら
簡単な日本語位は話せたはず。『探偵さんはいますか?』とか」
僕の言葉に、彼女は何も反応せず黙っている。
「確かにそうね。聞き取りが多少できるならそれ位は話せるはず。通じない可能性が高いのに
初めから全て英語で話すのは妙だわ。それに、暗号自体にもちょっと気になる部分があるのよね」
そう言ってクリスはさっき英文に直した暗号の紙を見せる。
「3行目を見て下さい。この『Colour』は何故かわざわざ面倒なイギリス式スペルを使っています。
途中のCornstarchからCornflourへの変換等もそうですが、アメリカ英語とイギリス英語の対比
のようなものがよく使われています。ごた混ぜにしているのか意図してなのかは判りませんが、
この文章は、純粋なアメリカ人ではなく英語の違いに詳しい英語圏以外の人が書いた
ような印象を受けるんです」
彼女の表情からすると段々焦ってきているようだ。今度は僕から彼女の気になる言動を……
「そして、更に気になるのは貴女のこの発言。
『実は今週末に売り払うことになっておりまして……この文章の示すモノが
万が一実家にあるとしたら、来週以降では間に合わないのです』
確かに先生が戻られるのは来週です。が、クリスが説明したのは『先生は留守だ』ということのみ。
もしかしたら戻るのは今日中かもしれない。普通今留守だと言われたら、いつ戻るか訊くでしょう。
貴女の発言からすると、先生が来週まで戻られないことをご存知だったかのようにも思えます。
それに、家宝のような重要な話なら、解けるかすら分からない僕らに代わりを頼むより
他の探偵さんを当たった方が解ける可能性は何倍も高いと思います。
そして、クリスの言う暗号文の妙な点と考え併せると……ある仮説が浮かんで来るんですよ。
『貴女は先生の知り合いか何かで、先生の予定や暗号の難易度を知っており、
時間がないのを理由にして結局僕らにこの暗号を解かせたかったんじゃないか』という」
「そっか〜。だとすると、最初から全部英語で話していたコトも辻褄が合う気がする……
クリスが帰国子女で英語ペラペラだってコト知ってたから、確実に英語で対応して貰えるのが
判ってたとか? 某芸能人みたいに、外人顔でも英語が全くダメなハーフの人とかもいることを
考えたら、やっぱり最初の簡単な会話位は日本語でするだろうしね」
*********************************************************************************************
一瞬間を置いてセシリアさんはまた英語で話し始めた。それを再びクリスが訳し、会話が続く。
「正体? 一体何のことを言ってるのかしら? 正体も何も、私はただの依頼人ですよ」
「ただの依頼人さんが、日本語全く分からないフリする必要あるんッスかねェ?」
「あらごめんなさい。まだ言ってませんでしたね。向こうの大学で日本語を勉強していたので、
一応聞き取りは多少できるんです。でも、こういう込み入った内容を話す迄はまだできなくて……」
向こうで勉強しててリスニングはできる……ふーん、そう来るか。まぁ予想通りの反応だけど。
「そう言えば、この部屋に入って来た時、セシリアさんは真っ先にキヨに話しかけましたよね?
明らかに外人顔のクリスも同じ部屋にいたのに。普通、外国語に自信がなければ、少しでも
自分の言葉が通じそうな相手に話しかけたくなるものじゃないですか? それに、勉強していたなら
簡単な日本語位は話せたはず。『探偵さんはいますか?』とか」
僕の言葉に、彼女は何も反応せず黙っている。
「確かにそうね。聞き取りが多少できるならそれ位は話せるはず。通じない可能性が高いのに
初めから全て英語で話すのは妙だわ。それに、暗号自体にもちょっと気になる部分があるのよね」
そう言ってクリスはさっき英文に直した暗号の紙を見せる。
「3行目を見て下さい。この『Colour』は何故かわざわざ面倒なイギリス式スペルを使っています。
途中のCornstarchからCornflourへの変換等もそうですが、アメリカ英語とイギリス英語の対比
のようなものがよく使われています。ごた混ぜにしているのか意図してなのかは判りませんが、
この文章は、純粋なアメリカ人ではなく英語の違いに詳しい英語圏以外の人が書いた
ような印象を受けるんです」
彼女の表情からすると段々焦ってきているようだ。今度は僕から彼女の気になる言動を……
「そして、更に気になるのは貴女のこの発言。
『実は今週末に売り払うことになっておりまして……この文章の示すモノが
万が一実家にあるとしたら、来週以降では間に合わないのです』
確かに先生が戻られるのは来週です。が、クリスが説明したのは『先生は留守だ』ということのみ。
もしかしたら戻るのは今日中かもしれない。普通今留守だと言われたら、いつ戻るか訊くでしょう。
貴女の発言からすると、先生が来週まで戻られないことをご存知だったかのようにも思えます。
それに、家宝のような重要な話なら、解けるかすら分からない僕らに代わりを頼むより
他の探偵さんを当たった方が解ける可能性は何倍も高いと思います。
そして、クリスの言う暗号文の妙な点と考え併せると……ある仮説が浮かんで来るんですよ。
『貴女は先生の知り合いか何かで、先生の予定や暗号の難易度を知っており、
時間がないのを理由にして結局僕らにこの暗号を解かせたかったんじゃないか』という」
「そっか〜。だとすると、最初から全部英語で話していたコトも辻褄が合う気がする……
クリスが帰国子女で英語ペラペラだってコト知ってたから、確実に英語で対応して貰えるのが
判ってたとか? 某芸能人みたいに、外人顔でも英語が全くダメなハーフの人とかもいることを
考えたら、やっぱり最初の簡単な会話位は日本語でするだろうしね」
*********************************************************************************************