人間爆弾 素人探偵 氷橋 賢人の事件簿4 ≫No. 1
マサアキ
<東京都新宿区 某所>
「うわ〜、ひどいわね。なんなのここ?爆弾でも落とされたのかしら。」
由良間 薫は刑事という職業柄、犯行現場をいくつも見て来たが今回ばかりは凄惨そのものだ。部屋一面は爆発の影響で家具はめちゃめちゃで血が所々飛び散っている。砕けたドアの目の前に仰向けで倒れていた被害者自身も、まるでつぶれたトマトのようだった。
「被害者の名前は柿沼 篤志。21歳の大学生です。死因は爆発によるショック死。おそらく即死でしょう。死亡推定時刻は11時5分。近隣住民が11時ちょうどにド〜ンという轟音を耳にしたのが決めてです。」
由良間の同僚の火川 光樹はハンカチで吐き気を抑えながら身元を説明した。
「今、12時か。被害者は一人暮らしなの?」
「ええ、父親は四菱重工の重役で母親はその会社の専務です。僕自身も何度かパーティで会った事がありますから知っています。このマンションは被害者の父親が可愛い息子の為に買ってあげたそうですよ。」
薫は火川が大企業の社長の令息である事を少し思い出した。
「この部屋付近の住人の被害は?」
「それは大丈夫です。この2階フロア一帯は被害者の名義で借りていますから」
「あっ、そ。こんなに部屋借りて何の役に立つって言うのよ、まったく。何で爆発したの?」
「それがまだ何とも。部屋には酸素ボンベと吸いがらのタバコが転がっていました。おそらく被害者はボンベが開いている事を知らずに寝起きのタバコに火をつけてしまい、そこで爆発した。。。。これって、完全な事故ですよね。」
「まだわからないわよ。とにかく被害者の交友関係、洗っといてくれる?・・・・・」そう言って薫はそそくさと現場に向かった。
「はい。あ、それと由良間さん。近所の人の証言によると爆発の数分前になんかジリリッって音も聞こえたそうですよ....」
===============================================
<警視庁捜査一科取調室前>
「で...なんであんたがここにいるわけ?」
「仕方ないだろ。被害者の柿沼君はうちのアルバイトだったんだから。」
薫のいる所轄取調室の待ち合い廊下で話している相手は、氷橋 賢人。新宿にあるしがない喫茶店のマスターで薫の恋人だが、過去何度も薫の手に負えなかった難事件を解決してくれた探偵でもある。
「しかも取調室にいるのが、被害者と話した最後の人物とはね。おまけに事件の前日の夜に被害者と一緒だった。賢人の周りって本当に事件多いわよね。」
そう。今取り調べを受けている青年、夏目清一郎は氷橋の喫茶店のもう1人のアルバイトで被害者・柿沼 篤志とは親友なのだ。
「別に俺のせいじゃないだろ。」
「まあ、それは置いといて。今朝の事と被害者の事について話してくれる?」
「ああ。今朝は10時30分に夏目君が来て、柿沼君はその20分後に店に来るはずだったんだ。でも予定の時間になっても柿沼君は来なくてさ。彼には遅刻癖があって、『今度予定の時間に来なかったら減給するよ』って釘刺したばっかりだったんだ。それで10時57分頃に夏目君に携帯で電話を掛けさせたら、案の定まだ寝ててね。『今すぐ行きます。』って電話を聞いてからしばらく経っても来なくて、そしたらお前から電話をもらったって訳。」
「なるほどね、遅刻癖か。彼の家は店からどれくらい?」
「往復で30分ってところかな。さっきの話を聞く限りじゃ事故か自殺の両面で捜査をしてるのか?」
「あまり大きく言えないけど、そうね。現場には酸素ボンベが落ちているし、タバコの吸い殻もあったから。」
「酸素ボンベ?ああ、そういえばスキューバが趣味だとか言ってたな。現場の状態は?」
「ホントに爆弾が落ちたみたいな感じよ。被害者は...ってごめんなさい。」
「いいんだ、続けてくれ。」氷橋は辛そうな顔を一瞬見せたが、すぐに普段の冷静な顔に戻した。
「彼はドアの前で仰向けに倒れていたわ。それに鑑識の報告によると、彼、寒がりだったのかジャケットの下に厚手のセーターとフリースを着ていたのよ。」
「そうか。」
少しばかりの沈黙の後、氷橋は少しばかり深呼吸した後、薫に言った。
「あのさ、薫。ちょっと探して欲しいものがあるんだけど。」
「何?」
そう言った時、氷橋はそっと耳打ちした。
====
ガチャッ.....
====
ちょうど、その時。当の夏目清一郎が取調室から出て来た。
「夏目君。大丈夫か?」
「すいません...なんか賢人さんに迷惑かけてしまって。」
「それくらいは大丈夫だよ。とりあえず店に戻ろう。」
「はい。」
「薫、後で電話くれ。」
「分かった。」
=================================================
<車の中>
「取り調べで何か聞かれたかい。言いたくないなら構わないよ...」
「昨日のアリバイとか、柿沼とはどれくらい親しかったんだとかそんな感じの事ですよ。」
「そうか。」
「賢人さんは聞かないんですか?僕の昨日のアリバイを。」
「聞いて欲しいのかい?」
「聞きたいのなら。」
「じゃあ、聞こう。」
「昨日は遅くまであいつと大学近くの居酒屋で飲んでいました。店を出たのが10時くらい。僕の家は渋谷であいつは新宿だったから途中まで一緒に帰りました。その後別れて、僕は自分の家に。」
「君は柿沼君の家には行った事はあるのか?」
「2、3回くらいですね。それ以外は全然...」
===ブ〜〜〜ブ〜〜〜===
静かな車内の中に携帯のバイブ音がこだまする。
「はい。ああ、そうか、わかった。ありがとう。また電話する。」
「誰ですか。」
「弟からだよ。心配だから早く帰ってこいってさ。」
「そうですか。」そう聞いて、夏目は一瞬ばかり笑みを浮かべた。
「なあ、夏目君。」
「はい?」
「柿沼君を...殺したのは君だろ。」
=================================================
はい、ここで問題編は終わりです。長い文章につきあってくれてありがとうございます。久しぶりに書いたのでちょっと緊張します。
では、ここで問題です。
夏目清一郎の仕掛けた爆破トリックは一体なんなのか?そして、どうやって犯行を行ったのか?
近々、解決編を出しますので楽しみにしてください。
マサアキ
「うわ〜、ひどいわね。なんなのここ?爆弾でも落とされたのかしら。」
由良間 薫は刑事という職業柄、犯行現場をいくつも見て来たが今回ばかりは凄惨そのものだ。部屋一面は爆発の影響で家具はめちゃめちゃで血が所々飛び散っている。砕けたドアの目の前に仰向けで倒れていた被害者自身も、まるでつぶれたトマトのようだった。
「被害者の名前は柿沼 篤志。21歳の大学生です。死因は爆発によるショック死。おそらく即死でしょう。死亡推定時刻は11時5分。近隣住民が11時ちょうどにド〜ンという轟音を耳にしたのが決めてです。」
由良間の同僚の火川 光樹はハンカチで吐き気を抑えながら身元を説明した。
「今、12時か。被害者は一人暮らしなの?」
「ええ、父親は四菱重工の重役で母親はその会社の専務です。僕自身も何度かパーティで会った事がありますから知っています。このマンションは被害者の父親が可愛い息子の為に買ってあげたそうですよ。」
薫は火川が大企業の社長の令息である事を少し思い出した。
「この部屋付近の住人の被害は?」
「それは大丈夫です。この2階フロア一帯は被害者の名義で借りていますから」
「あっ、そ。こんなに部屋借りて何の役に立つって言うのよ、まったく。何で爆発したの?」
「それがまだ何とも。部屋には酸素ボンベと吸いがらのタバコが転がっていました。おそらく被害者はボンベが開いている事を知らずに寝起きのタバコに火をつけてしまい、そこで爆発した。。。。これって、完全な事故ですよね。」
「まだわからないわよ。とにかく被害者の交友関係、洗っといてくれる?・・・・・」そう言って薫はそそくさと現場に向かった。
「はい。あ、それと由良間さん。近所の人の証言によると爆発の数分前になんかジリリッって音も聞こえたそうですよ....」
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<警視庁捜査一科取調室前>
「で...なんであんたがここにいるわけ?」
「仕方ないだろ。被害者の柿沼君はうちのアルバイトだったんだから。」
薫のいる所轄取調室の待ち合い廊下で話している相手は、氷橋 賢人。新宿にあるしがない喫茶店のマスターで薫の恋人だが、過去何度も薫の手に負えなかった難事件を解決してくれた探偵でもある。
「しかも取調室にいるのが、被害者と話した最後の人物とはね。おまけに事件の前日の夜に被害者と一緒だった。賢人の周りって本当に事件多いわよね。」
そう。今取り調べを受けている青年、夏目清一郎は氷橋の喫茶店のもう1人のアルバイトで被害者・柿沼 篤志とは親友なのだ。
「別に俺のせいじゃないだろ。」
「まあ、それは置いといて。今朝の事と被害者の事について話してくれる?」
「ああ。今朝は10時30分に夏目君が来て、柿沼君はその20分後に店に来るはずだったんだ。でも予定の時間になっても柿沼君は来なくてさ。彼には遅刻癖があって、『今度予定の時間に来なかったら減給するよ』って釘刺したばっかりだったんだ。それで10時57分頃に夏目君に携帯で電話を掛けさせたら、案の定まだ寝ててね。『今すぐ行きます。』って電話を聞いてからしばらく経っても来なくて、そしたらお前から電話をもらったって訳。」
「なるほどね、遅刻癖か。彼の家は店からどれくらい?」
「往復で30分ってところかな。さっきの話を聞く限りじゃ事故か自殺の両面で捜査をしてるのか?」
「あまり大きく言えないけど、そうね。現場には酸素ボンベが落ちているし、タバコの吸い殻もあったから。」
「酸素ボンベ?ああ、そういえばスキューバが趣味だとか言ってたな。現場の状態は?」
「ホントに爆弾が落ちたみたいな感じよ。被害者は...ってごめんなさい。」
「いいんだ、続けてくれ。」氷橋は辛そうな顔を一瞬見せたが、すぐに普段の冷静な顔に戻した。
「彼はドアの前で仰向けに倒れていたわ。それに鑑識の報告によると、彼、寒がりだったのかジャケットの下に厚手のセーターとフリースを着ていたのよ。」
「そうか。」
少しばかりの沈黙の後、氷橋は少しばかり深呼吸した後、薫に言った。
「あのさ、薫。ちょっと探して欲しいものがあるんだけど。」
「何?」
そう言った時、氷橋はそっと耳打ちした。
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ガチャッ.....
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ちょうど、その時。当の夏目清一郎が取調室から出て来た。
「夏目君。大丈夫か?」
「すいません...なんか賢人さんに迷惑かけてしまって。」
「それくらいは大丈夫だよ。とりあえず店に戻ろう。」
「はい。」
「薫、後で電話くれ。」
「分かった。」
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<車の中>
「取り調べで何か聞かれたかい。言いたくないなら構わないよ...」
「昨日のアリバイとか、柿沼とはどれくらい親しかったんだとかそんな感じの事ですよ。」
「そうか。」
「賢人さんは聞かないんですか?僕の昨日のアリバイを。」
「聞いて欲しいのかい?」
「聞きたいのなら。」
「じゃあ、聞こう。」
「昨日は遅くまであいつと大学近くの居酒屋で飲んでいました。店を出たのが10時くらい。僕の家は渋谷であいつは新宿だったから途中まで一緒に帰りました。その後別れて、僕は自分の家に。」
「君は柿沼君の家には行った事はあるのか?」
「2、3回くらいですね。それ以外は全然...」
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静かな車内の中に携帯のバイブ音がこだまする。
「はい。ああ、そうか、わかった。ありがとう。また電話する。」
「誰ですか。」
「弟からだよ。心配だから早く帰ってこいってさ。」
「そうですか。」そう聞いて、夏目は一瞬ばかり笑みを浮かべた。
「なあ、夏目君。」
「はい?」
「柿沼君を...殺したのは君だろ。」
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はい、ここで問題編は終わりです。長い文章につきあってくれてありがとうございます。久しぶりに書いたのでちょっと緊張します。
では、ここで問題です。
夏目清一郎の仕掛けた爆破トリックは一体なんなのか?そして、どうやって犯行を行ったのか?
近々、解決編を出しますので楽しみにしてください。