*** 某月某日、二葉家にて ***
椿は資料を机の上に置き、パソコンを起動させた。
(午前中のうちに大学のレポートまとめちゃって、午後は服を買いにでも行こうっと…)
ウィーン…という起動音を聞きながら資料を広げて、ぼんやりとそんなことを考えていると、ドタドタという廊下を走る音に続き、部屋のドアがどん、と開いた。
「つーちゃん、たいへん! 『さつじんじけん』だよ!!」
……姪の桜だ。来年から小学生になる。母親である私の姉・楓が仕事持ちであることもあって、そう遠くない距離にある我が二葉家には頻繁に出入りしている。
「桜ちゃん、おうちの中は走っちゃダメでしょ?」
たしなめると、頬をふくらませて不服そうに、それでも一応「はぁい」と言う。
「でも、ほんとうに『さつじんじけん』だよ?」
(どこでそんな言葉覚えたんだろう?)
そんなことが頭をよぎるが、好奇心を抑えきれず尋ねる。
「殺人事件? どこで?」
「んっと、あっちの、おきものうってる、おっきなおみせ〜」
(お着物…ってことは浦野通りの鷺篠呉服店かな…)
確かに店構えはそれなりに大きいが、客に高額の着物を売りつけ、不当に高い利率でローンを組ませる悪徳業者だという噂を聞いたことがある…。
桜と話している間に起動が終わったパソコンでニュースを調べてみるが、それらしい記事はまだ載っていないようだ。
桜は幾分興奮しているようで、さらに続けてしゃべっている。
「ころされたひと、りょうてにきれいなきものもってたんだよ〜。きいろみたいなのでおはながいっぱいついてるのと、みどりいろの…」
(ってこの子、死体を見たの!? でも、その割にはケロっとしてるけど…あまり生々しいところは見なかったんだろうか?)
しげしげと桜を見つめたところで、桜が何か持っているのに気づく。
「桜ちゃん、これどうしたの?」
「ん? んーと、なんかね〜、おちてたから、ひろったの〜…」
いきなり歯切れが悪くなる。
(………)
とりあえず、桜が持っていた紙片を受取り、中を見てみる。
************* 高額滞納者リスト *************
氏名 住所・電話 金額
緑川 早智子 ××××××××××× ×××××
藤原 葵 ××××××××××× ×××××
檀 真弓 ××××××××××× ×××××
平 安子 ××××××××××× ×××××
松野 由紀 ××××××××××× ×××××
矢吹 幸 ××××××××××× ×××××
井伊 かおり ××××××××××× ×××××
青井 鈴 ××××××××××× ×××××
白木 美紀 ××××××××××× ×××××
小栗 恵 ××××××××××× ×××××
・
・
・
***********************************
察するに、鷺篠呉服店の顧客のうち、代金回収が滞っている顧客のリストのようだ。
女性の名前ばかりズラリと並んでいる。桜はこれを事件現場から持ってきちゃったのか…。
(でもまさかこれって…)
お絵かき用に置いてある20色セットのクレヨンを持ってきて、桜に聞いてみる。
「桜ちゃん、さっき言ってたお着物ってこの中でいうと、どの色みたいだった?」
すると桜は、最近ピ○チュウばかり描いているので黄色だけ極端に減ったクレヨンセットの中を指差しながら、
「これとー、…うーん…これ、かなー」
(ふむふむ…黄緑色と黄土色…ね)
それを確認してからパソコンを操作し、もう一度ニュースを検索してみると今度はヒットした。
某月某日未明、○○県○○市の鷺篠呉服店の店主鷺篠亜久人さんが刺殺体となって発見された。
警察は現在、事件性が高いとして捜査を進めている。……… どちらにしても、さっきのリストは警察に届けなければなるまい。
それに……。
pekoe
椿は資料を机の上に置き、パソコンを起動させた。
(午前中のうちに大学のレポートまとめちゃって、午後は服を買いにでも行こうっと…)
ウィーン…という起動音を聞きながら資料を広げて、ぼんやりとそんなことを考えていると、ドタドタという廊下を走る音に続き、部屋のドアがどん、と開いた。
「つーちゃん、たいへん! 『さつじんじけん』だよ!!」
……姪の桜だ。来年から小学生になる。母親である私の姉・楓が仕事持ちであることもあって、そう遠くない距離にある我が二葉家には頻繁に出入りしている。
「桜ちゃん、おうちの中は走っちゃダメでしょ?」
たしなめると、頬をふくらませて不服そうに、それでも一応「はぁい」と言う。
「でも、ほんとうに『さつじんじけん』だよ?」
(どこでそんな言葉覚えたんだろう?)
そんなことが頭をよぎるが、好奇心を抑えきれず尋ねる。
「殺人事件? どこで?」
「んっと、あっちの、おきものうってる、おっきなおみせ〜」
(お着物…ってことは浦野通りの鷺篠呉服店かな…)
確かに店構えはそれなりに大きいが、客に高額の着物を売りつけ、不当に高い利率でローンを組ませる悪徳業者だという噂を聞いたことがある…。
桜と話している間に起動が終わったパソコンでニュースを調べてみるが、それらしい記事はまだ載っていないようだ。
桜は幾分興奮しているようで、さらに続けてしゃべっている。
「ころされたひと、りょうてにきれいなきものもってたんだよ〜。きいろみたいなのでおはながいっぱいついてるのと、みどりいろの…」
(ってこの子、死体を見たの!? でも、その割にはケロっとしてるけど…あまり生々しいところは見なかったんだろうか?)
しげしげと桜を見つめたところで、桜が何か持っているのに気づく。
「桜ちゃん、これどうしたの?」
「ん? んーと、なんかね〜、おちてたから、ひろったの〜…」
いきなり歯切れが悪くなる。
(………)
とりあえず、桜が持っていた紙片を受取り、中を見てみる。
察するに、鷺篠呉服店の顧客のうち、代金回収が滞っている顧客のリストのようだ。
女性の名前ばかりズラリと並んでいる。桜はこれを事件現場から持ってきちゃったのか…。
(でもまさかこれって…)
お絵かき用に置いてある20色セットのクレヨンを持ってきて、桜に聞いてみる。
「桜ちゃん、さっき言ってたお着物ってこの中でいうと、どの色みたいだった?」
すると桜は、最近ピ○チュウばかり描いているので黄色だけ極端に減ったクレヨンセットの中を指差しながら、
「これとー、…うーん…これ、かなー」
(ふむふむ…黄緑色と黄土色…ね)
それを確認してからパソコンを操作し、もう一度ニュースを検索してみると今度はヒットした。
某月某日未明、○○県○○市の鷺篠呉服店の店主鷺篠亜久人さんが刺殺体となって発見された。
警察は現在、事件性が高いとして捜査を進めている。………
どちらにしても、さっきのリストは警察に届けなければなるまい。
それに……。