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寒來
2007/02/12 18:14
署内の一角にある取調室にその人物の姿があった、森崎花恵である。
花恵「あのぉ、お話というのは?」
来栖「実はですね、亡くなられた鞍馬庚岱さんの手にあるものが握られていたんです・・・これです」
花恵「これって、なんとなく見覚えがある感じがしますが、これが何か?」
寒郡「まぁそれはこっちで手打ちして印刷したもので、実際に握られていたのはこっちなんですがね」
と言い、庚岱の手に握られていた紙を見せると、一瞬、花恵の目が見開いたかのように見えた。
寒郡「初めは何の事だかさっぱりわからなかったんですがね、後であの別荘に行って全部持ってきて調べたんですよ」
寒郡「結構うまいこと出来ててね、ほら、これなんか結構力作って感じがするでしょ?」
と言いながら、鞍馬家別荘から押収した、庚岱が書いた直筆の文章を何枚か見せると、
「これが一体?さっぱり分かりませんが」と当たり前とも取れる反応が返ってきたが、
寒郡「いいかい?よ〜くこれを見るんだ。この漢字の部分を黒く塗りつぶしていくと・・・」
そう言って一つずつ上から丁寧に漢字の部分を塗りつぶしていき、『花』と読める形を浮かび上がらせた。
寒郡「鞍馬氏がダイイングメッセージとして残したこの紙は、あなたを指している事になりますよね?」
しばしの沈黙を保った後、おもむろに花恵が反撃へと移った。
花恵「確かに私の名前には『花』が入っていますが、それはたまたまで、これだけで犯人だと言われても納得できません!」
寒郡「勿論、これがたまたま握られていた紙かもしれない。だが、こう言う偶然はそうあるもんじゃない」
花恵「だからって、これだけで私を逮捕しようというんですか?こんなの警察の横暴です!私帰ります!」
寒郡「そうですか、ではお帰りになって結構ですよ、ですが、そのペンダントは置いていって貰えますか?」
『何故?』という面持ちで私をにらみ付ける花恵に対し、厳しい面持ちでこう続けた。
寒郡「あなたは『硝煙反応』と言うのをご存知ですか?拳銃を撃った時に残る硝煙の事を言うんですがね・・・」
寒郡「でもね、今更手や服についているなんてことは無いでしょうし。だからねそのペンダントなんですよ。
余程の理由がなければペンダントなんてものは洗うもんじゃないからね」
花恵は話を聞きながら無意識的にペンダントを握り締めていた。
花恵「・・ぃゃ・・絶対にいや、これだけは渡せない!」と、取り乱す花恵に対し、私も少し感情的になり、
寒郡「どうして『宝物』とまで言っていた、その大事なペンダントをしたまま殺人なんか起こしたんだ!」
そう声を荒げると、花恵の動きが一瞬止まり、次の瞬間大粒の涙をこぼし泣き崩れたのだった。
数時間後、ようやく落ち着いた花恵からペンダントを預かり硝煙反応の検査をした。
結果はペンダントの凹凸部分に微量ながら反応が見られ、奇しくも証拠物として押収することになった。
その後の彼女の話で、あのペンダントは自殺した彼から貰った思い出の品であり、肌身離さず身に着けていた物だったそうだ。
ある時を境に飛躍した庚岱の影にはその彼が居たこと、庚岱から離れてひとり立ちしたいと申し出た後、
様々な工作で嫌がらせを受け、心身ともに疲弊し、そんな一種の”闇”とも呼べるような現実を、
恋人の花恵にすら打ち明けることなく、若く輝く命が静かに散っていったことなどを聞き、
私はやりきれなさと、怒りにも似た切なさを抱きつつも、矛盾した気持ちを抱えていた。
花恵「だから、どうしても憎いあいつを殺す時も・・一緒に居て欲しかったんです・・・」
寒郡「・・・あんたが言ってる事を理解すればしようとする程、自分と言う人間よりも、どうしても警察官としての自分が克っちまう」
花恵はうつむきながら私の話を聞き、すこし咽びながら、
花恵「どうして、どうしてあの人が死ななければいけなかったんですか・・あんな男がのうのうと生きて」
やりきれない現実が胸を去来するも、やはり私と言う人間は”それ”によって動かされているようで、
寒郡「例え、どんな極悪人であっても法の下に裁かれる権利があり、誰にも殺される権利も持っちゃいない。
今まで沢山の被害者や加害者を見てきたが、許される殺人なんて一つも無かった・・・
許される犯罪なんて、一つも無かった・・・」
そう返すことが精一杯であり、私の本音であった。
花恵はただじっとうつむいたままで涙を零すだけであった。
寒來 2007/02/12 18:14
花恵「あのぉ、お話というのは?」
来栖「実はですね、亡くなられた鞍馬庚岱さんの手にあるものが握られていたんです・・・これです」
花恵「これって、なんとなく見覚えがある感じがしますが、これが何か?」
寒郡「まぁそれはこっちで手打ちして印刷したもので、実際に握られていたのはこっちなんですがね」
と言い、庚岱の手に握られていた紙を見せると、一瞬、花恵の目が見開いたかのように見えた。
寒郡「初めは何の事だかさっぱりわからなかったんですがね、後であの別荘に行って全部持ってきて調べたんですよ」
寒郡「結構うまいこと出来ててね、ほら、これなんか結構力作って感じがするでしょ?」
と言いながら、鞍馬家別荘から押収した、庚岱が書いた直筆の文章を何枚か見せると、
「これが一体?さっぱり分かりませんが」と当たり前とも取れる反応が返ってきたが、
寒郡「いいかい?よ〜くこれを見るんだ。この漢字の部分を黒く塗りつぶしていくと・・・」
そう言って一つずつ上から丁寧に漢字の部分を塗りつぶしていき、『花』と読める形を浮かび上がらせた。
寒郡「鞍馬氏がダイイングメッセージとして残したこの紙は、あなたを指している事になりますよね?」
しばしの沈黙を保った後、おもむろに花恵が反撃へと移った。
花恵「確かに私の名前には『花』が入っていますが、それはたまたまで、これだけで犯人だと言われても納得できません!」
寒郡「勿論、これがたまたま握られていた紙かもしれない。だが、こう言う偶然はそうあるもんじゃない」
花恵「だからって、これだけで私を逮捕しようというんですか?こんなの警察の横暴です!私帰ります!」
寒郡「そうですか、ではお帰りになって結構ですよ、ですが、そのペンダントは置いていって貰えますか?」
『何故?』という面持ちで私をにらみ付ける花恵に対し、厳しい面持ちでこう続けた。
寒郡「あなたは『硝煙反応』と言うのをご存知ですか?拳銃を撃った時に残る硝煙の事を言うんですがね・・・」
寒郡「でもね、今更手や服についているなんてことは無いでしょうし。だからねそのペンダントなんですよ。
余程の理由がなければペンダントなんてものは洗うもんじゃないからね」
花恵は話を聞きながら無意識的にペンダントを握り締めていた。
花恵「・・ぃゃ・・絶対にいや、これだけは渡せない!」と、取り乱す花恵に対し、私も少し感情的になり、
寒郡「どうして『宝物』とまで言っていた、その大事なペンダントをしたまま殺人なんか起こしたんだ!」
そう声を荒げると、花恵の動きが一瞬止まり、次の瞬間大粒の涙をこぼし泣き崩れたのだった。
数時間後、ようやく落ち着いた花恵からペンダントを預かり硝煙反応の検査をした。
結果はペンダントの凹凸部分に微量ながら反応が見られ、奇しくも証拠物として押収することになった。
その後の彼女の話で、あのペンダントは自殺した彼から貰った思い出の品であり、肌身離さず身に着けていた物だったそうだ。
ある時を境に飛躍した庚岱の影にはその彼が居たこと、庚岱から離れてひとり立ちしたいと申し出た後、
様々な工作で嫌がらせを受け、心身ともに疲弊し、そんな一種の”闇”とも呼べるような現実を、
恋人の花恵にすら打ち明けることなく、若く輝く命が静かに散っていったことなどを聞き、
私はやりきれなさと、怒りにも似た切なさを抱きつつも、矛盾した気持ちを抱えていた。
花恵「だから、どうしても憎いあいつを殺す時も・・一緒に居て欲しかったんです・・・」
寒郡「・・・あんたが言ってる事を理解すればしようとする程、自分と言う人間よりも、どうしても警察官としての自分が克っちまう」
花恵はうつむきながら私の話を聞き、すこし咽びながら、
花恵「どうして、どうしてあの人が死ななければいけなかったんですか・・あんな男がのうのうと生きて」
やりきれない現実が胸を去来するも、やはり私と言う人間は”それ”によって動かされているようで、
寒郡「例え、どんな極悪人であっても法の下に裁かれる権利があり、誰にも殺される権利も持っちゃいない。
今まで沢山の被害者や加害者を見てきたが、許される殺人なんて一つも無かった・・・
許される犯罪なんて、一つも無かった・・・」
そう返すことが精一杯であり、私の本音であった。
花恵はただじっとうつむいたままで涙を零すだけであった。