クイズ大陸



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疑惑のCO ≫No. 1
?Yossy 2006/12/01 13:17囁き
50作目はB刑事が担当した密室事件です。長文になってしまったので、二つに分けての出題です。
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もう1年近く前のことになるが、東京近辺で5年ぶりに積雪をみたその夜、町の天才発明家を自任する夢尾覧男(ゆめお・みるお)の屋敷で起こった事件を紹介しよう。

その日は長男一郎、次男二郎、三男三郎が屋敷に集い、家政婦の政江を交え父親の還暦を祝っていた。
テーブルの上にはろうそくを立てた大きなバースデーケーキ、政江が腕を振るった料理が並べられている。また天井にはくす玉クラッカーがセットされ、色とりどりの風船がふわふわと漂っている。
「パン、パン、パン!」と鳴り響くクラッカーの音と「おめでとう」のかけ声とともにくす玉が割れ、お祝いメッセージの垂れ幕とキラキラテープが飛び出る。
「子どもの誕生日でもあるまいに。」などといいながらも、妻を早く亡くし一人暮らしの覧男は久しぶりに集まった子供達に上機嫌で自分の誕生日を楽しんでいたが、11時前にはほろ酔いで2階の自分の寝室に上がっていった。政江も11時には帰り、息子達も11時半には自分たちの寝室に引き上げ、直ぐ寝たという。

翌朝9時、みんなが朝食の席に着いても覧男が現れないので「ちょっと見てまいります。」と2階に上がっていった家政婦の政江が慌てて下りてきた。
「声を掛けても返事がありません。ドアが開かないしどうもいつもと様子が違います。」
「え!」と驚き、どやどやとみんなが2階に上がっていった。
一郎がドアのノブに手をかけて手前に引いた。
「鍵がかかっている。合鍵はないのか?」と一郎が叫ぶ。
「あ、私がマスターキーを持っています。すぐ持ってきます。」と政江が駆けだした。

「ガチャ、ガチャ!」鍵は開いたがドアチェーンが掛かっている。
少し開いたドアの隙間からムッとする暖かい空気が流れ出す。真っ暗な部屋の中に光が見える。どうやら石油ストーブがつけっぱなしになっているらしい。
「だめだ、チェーンが掛かっている。お父さん、お父さん!」一郎がいくら呼んでも返事がない。
「鍵など掛けたことがことがないのに。どうなさったのでしょう?」とおろおろする政江。
チェーンは頑丈な金属製の鎖で簡単には切れそうもない。
一郎がドアの隙間から手を突っ込んでチェーンを外そうとするがもちろん外せない。
「何かチェーンを切るものはないか?」と一郎が叫ぶ。
「物置にカッターがあるかもしれないな。探してみよう。」と二郎。
「それよりも庭に回れば窓から入れるかもしれないぞ。物置に折りたたみの梯子があるから持っていこう。」と三郎。
「そうか!よし、俺もいく!」と二郎。

玄関を開けると外は一面の銀世界。雪は昨夜の11時過ぎにはやんでいたがまだ空はどんよりと曇っている。新雪の上には門から玄関に向かって続く足跡の他はなにもない。積もった雪を踏みしめて庭から覧男の寝室の下に回った二郎と三郎が寝室の窓に梯子をかける。
「俺が登ろうか?」と三郎。
「いや、お前は高い所は苦手だろ。俺が登るよ。お前は梯子を物置に戻してくれ。」と二郎が梯子を登って行く。窓は閉まっており、カーテンが引いてあったが、幸い鍵はかかっていなかった。窓枠に積もった雪を払いのけ、二郎が窓から入るのをドアの間から一郎と政江が見ている。
「早くチェーンをはずせ!」と一郎が叫ぶ。
ドアに駆け寄った二郎がドアチェーンをはずしてドアを開ける。
一郎と政江が20畳ほどの寝室になだれ込み、ベッドに駆け寄る。
カーテンは開いたものの部屋は薄暗い。
「電気をつけろ。」またしても一郎が叫ぶ。
「はい!」と言って政江が壁にあるスイッチに駆け寄り、スイッチを入れるが照明は点かない。
「あら、どうしたのかしら?」
急いで二郎がベッド脇のデスクに駆け寄り電気スタンドのスイッチを入れる。
ぼんやりと照らし出された覧男は眠っているように見えたが、やはり既に死亡していた。
玄関から息を切らせ、ドタドタと階段を駆け上って来た三郎も呆然と父の死に顔を見下ろしている。
以上が関係者の供述による遺体発見までの経緯である。

検死の結果、死亡時間は昨夜の12時前後。死因は一酸化炭素による中毒死であった。
鍵はサムターン式のもので内側からはツマミを回せばロックできるが、外側からは鍵を使わなければロックできない。天井や床、壁などに抜け穴のようなものはなかったし、ドアには鍵が掛かり、チェーンも掛かっていた。寝室の鍵はドアの脇の照明スイッチの上にちゃんと掛かっており、指紋は覧男のものしか検出されなかった。窓に鍵はかかっていなかったが、窓の下はもちろん庭の雪にもその朝つけた二郎と三郎の足跡しかなかったのだから覧男の寝室は密室ということになる。

↓続く
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