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あらかた明らか刑事の事件帖「指のない女」 ●正解発表● ≫No. 1
?kaito 2005/02/26 00:22
洗面台から戻って私は愕然とした。
確かに息の根を止めたと思ったアイツの手に携帯電話が握られ、通話の状態に開かれている。
私は物音を立てないように、そっとアイツの死体に近づき、携帯電話に耳を澄ます。──まだ回線が繋がっているが、声はよく聞こえない。息絶える前に警察にでも通報したのだろうか? だとしたら、すぐに警察か救急がやって来るかも知れない。
でも、大丈夫。焦らなくていい。今日は予め準備もしてきたのだ。
私は指紋が付かないように、伸びた小指の爪の先で終話ボタンを押した。

 * * *

署から電話を受け、たまたま近隣で別件の聞き込み調査をやっていた僕がそのマンションの部屋に急行すると、ドアの前に一人の女性がいて鍵でドアを開けようとしているところだった。
僕が駆け上がって切れた息を整えるようにして近づくと、その女性もこちらに気付いたようだった。
「警察ですが、あなたは?」
「え? 警察の人ですか? どうして?」
「話は後にしましょう。あなたはここで待っていて下さい」
僕が管理人室で借りた合鍵でドアを開けて入ると、リビングの真ん中に男がうつ伏せに倒れていた。背中には包丁のような物が突き刺さっている。
テレビも付いており、サイドテーブルには二組のコーヒーセットがまだ置きっ放しになっていた。
僕はすぐに署に連絡を入れると、玄関先まで戻り、さっきの女性に話を聞いてみた。女性はこの部屋の住人の恋人で、ちょうど遊びに来て鍵を開けようとしているところに僕が到着して驚いた、と話した。

検死班と鑑識班の調査で、いろいろなことが分かってきた。
直接死因は包丁による刺殺だが、事前に睡眠薬を飲まされている。コーヒーからも同種の薬が検出された。つまり予め睡眠薬で自由を奪っておき、倒れた背中に包丁を突き立てた──という訳だ。こうした二重の手口は、非力な女性が採る方法だろうと僕は思った。
しかし不思議なことに、そのカップからも包丁からも、被害者以外の新しい指紋が検出されなかったのである。
犯人が拭き取ったのかとも思われたが、被害者自身の指紋はしっかりと付いていた。カップはともかく、背中の包丁に、自分の指紋を拭き取った後で被害者の指紋を付け直すことは不可能だ。
さっきの電話で堂本先輩が手袋の話をしていたが、コーヒーを飲む時から手袋をしていたら誰が見ても怪しい。
僕は念のために、例の女性の持ち物を調べてみたが、バッグの中身は、手帳、ペン、携帯電話、ハンカチ、ポケットティッシュと化粧道具くらいで、手袋やそれに類するものは無かった。

しかし、僕はある物の存在に気付いて、その女性を容疑者として定め、最終的には自供に持ち込んだ。


さて、その女性はどうやって自分の指紋だけを消し去ったのでしょうか?
                                 (巡査 荒方 明)
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