「今夜中には移動するぞ」
「ああ、そうしよう」
隣の部屋から声がする。
御手洗麻衣子は後ろ手に縛られた両手首をじりじりと捻りながら、頭を巡らせていた。
見知らぬ男たちに拉致監禁されて、もうどれくらい経つだろう。家にはもう連絡が行っただろうか。この町の中ならまだしも、ここを離れて遠くへ連れて行かれたら、警察の捜査も長引いてしまう。なんとかして次の移動先の手掛かりだけでもここへ置いていけないだろうか。
麻衣子はふと、ジーンズの後ろのポケットに携帯電話がまだ入っているのに気が付いた。
おそらくここは“圏外”だろうから、犯人たちもあまり気にしていなかったのかも知れない。
この携帯に手掛かりとなるメッセージを残して置いていこう、と麻衣子は思った。
しかし、この状態ではメニューからメールを起動して文章を入力するのは無理だ。確実性で言えば数字ボタンと、発信キー、終話キーを押すくらいが限界だろう。
かなめくり方式(例えば「まいこ」なら「71122222」と入れる携帯電話用文字入力方式)で数字を表示させておくこともできるが、もしそれが見つかったら自分自身の身も保障されない。
なんとかして、不自然さの無い形で、移動先の手掛かりを残せないものだろうか・・・
* * *
庵郷トキオは、幼馴染の麻衣子が誘拐されたと聞いて、彼女の邸宅へ駆けつけた。
本当は刑事たちが「部外者の方はちょっと」と止めたのだが、麻衣子の母が「家族同然だからどうしても」と押し切ったのだ。
しかしそう言いながら麻衣子の母は本心では、トキオ君の方が警察よりずっと頼りになるわよ、と思っていた。
やがて、御手洗邸にひとつの物件が届けられた。「例の地下倉庫で見つかった」と説明されたその携帯電話は、まぎれもなく麻衣子のそれだった。見慣れたシールが貼りついている。
刑事たちは初め、留守電機能やメモ機能に犯人や本人からのメッセージでも入っていないか調べていたが、その類のものは見つからなかった。
トキオは黙ってそれを眺めていたが、タイミングを見計らっていたのか、不意にその携帯電話を手に取った。
刑事は慌ててそれを遮ろうとし、麻衣子の母の冷たい視線に遭って手を引っ込めた。
「刑事さん、おばさん、これ見て下さい。」
そう言ってトキオが見せたのは発信履歴だった。
「名前の出ていない発信履歴が、8件もあるんです。電話帳に無い発信先、ということですよね。ちょっと気になりませんか?」
刑事たちもさすがに少し唸って見せた。
発信履歴01 0317013640
発信履歴02 0327029046
発信履歴03 0327029046
発信履歴04 0313028000
発信履歴05 0313028079
発信履歴06 0317013649
発信履歴07 0327029046
発信履歴08 0317019039
刑事は試しに何件かかけてみたが、使われていない番号や見当外れのところばかりだった。
トキオは履歴に表示されている電話番号をメモし、隣の部屋で自分の携帯電話と見比べながら考え込んでいたが、しばらくして戻ってきて言った。
「これには、ある場所の名前が書いてあります。麻衣子の残したメッセージですよ、きっと。」
トキオはメモと自分の携帯電話を見せながら説明を始めた。
「まず、共通している“03”の部分は、電話番号に見せるためのカモフラージュです。その後の8桁が暗号になっていました。実際にボタンを押してみたらすぐに分かりました。ちょっと見ていて下さい。ポイントは“0”です。じゃあ行きますよ。・・・1・・・7・・・0・・・1・・・」
そう言ってトキオは、携帯電話のボタンを順々に押して見せた・・・
さて、麻衣子はどんなメッセージを残したのだろうか?
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電話番号はフィクションなので、実際にかけないで下さいね。
「ああ、そうしよう」
隣の部屋から声がする。
御手洗麻衣子は後ろ手に縛られた両手首をじりじりと捻りながら、頭を巡らせていた。
見知らぬ男たちに拉致監禁されて、もうどれくらい経つだろう。家にはもう連絡が行っただろうか。この町の中ならまだしも、ここを離れて遠くへ連れて行かれたら、警察の捜査も長引いてしまう。なんとかして次の移動先の手掛かりだけでもここへ置いていけないだろうか。
麻衣子はふと、ジーンズの後ろのポケットに携帯電話がまだ入っているのに気が付いた。
おそらくここは“圏外”だろうから、犯人たちもあまり気にしていなかったのかも知れない。
この携帯に手掛かりとなるメッセージを残して置いていこう、と麻衣子は思った。
しかし、この状態ではメニューからメールを起動して文章を入力するのは無理だ。確実性で言えば数字ボタンと、発信キー、終話キーを押すくらいが限界だろう。
かなめくり方式(例えば「まいこ」なら「71122222」と入れる携帯電話用文字入力方式)で数字を表示させておくこともできるが、もしそれが見つかったら自分自身の身も保障されない。
なんとかして、不自然さの無い形で、移動先の手掛かりを残せないものだろうか・・・
* * *
庵郷トキオは、幼馴染の麻衣子が誘拐されたと聞いて、彼女の邸宅へ駆けつけた。
本当は刑事たちが「部外者の方はちょっと」と止めたのだが、麻衣子の母が「家族同然だからどうしても」と押し切ったのだ。
しかしそう言いながら麻衣子の母は本心では、トキオ君の方が警察よりずっと頼りになるわよ、と思っていた。
やがて、御手洗邸にひとつの物件が届けられた。「例の地下倉庫で見つかった」と説明されたその携帯電話は、まぎれもなく麻衣子のそれだった。見慣れたシールが貼りついている。
刑事たちは初め、留守電機能やメモ機能に犯人や本人からのメッセージでも入っていないか調べていたが、その類のものは見つからなかった。
トキオは黙ってそれを眺めていたが、タイミングを見計らっていたのか、不意にその携帯電話を手に取った。
刑事は慌ててそれを遮ろうとし、麻衣子の母の冷たい視線に遭って手を引っ込めた。
「刑事さん、おばさん、これ見て下さい。」
そう言ってトキオが見せたのは発信履歴だった。
「名前の出ていない発信履歴が、8件もあるんです。電話帳に無い発信先、ということですよね。ちょっと気になりませんか?」
刑事たちもさすがに少し唸って見せた。
発信履歴01 0317013640
発信履歴02 0327029046
発信履歴03 0327029046
発信履歴04 0313028000
発信履歴05 0313028079
発信履歴06 0317013649
発信履歴07 0327029046
発信履歴08 0317019039
刑事は試しに何件かかけてみたが、使われていない番号や見当外れのところばかりだった。
トキオは履歴に表示されている電話番号をメモし、隣の部屋で自分の携帯電話と見比べながら考え込んでいたが、しばらくして戻ってきて言った。
「これには、ある場所の名前が書いてあります。麻衣子の残したメッセージですよ、きっと。」
トキオはメモと自分の携帯電話を見せながら説明を始めた。
「まず、共通している“03”の部分は、電話番号に見せるためのカモフラージュです。その後の8桁が暗号になっていました。実際にボタンを押してみたらすぐに分かりました。ちょっと見ていて下さい。ポイントは“0”です。じゃあ行きますよ。・・・1・・・7・・・0・・・1・・・」
そう言ってトキオは、携帯電話のボタンを順々に押して見せた・・・
さて、麻衣子はどんなメッセージを残したのだろうか?
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電話番号はフィクションなので、実際にかけないで下さいね。