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ドーニックのパラドクス ≫No. 1
?千夜一夜 2022/05/01 17:05囁き
 
注:以下は出題ではありません。
 
正解を求めているわけではありません。
こんな物語は如何?と駄弁を弄しているだけです。
 
皆様がたには、自由気ままなコメントないし、まじツッコミ・ナイスボケ等を頂ければと存じます。
 
=====
 
惑星シンナックス(Synnax)出身の数学者であるガール・ドーニック(Gaal Dornick)は
ハリ・セルダン(Hari Seldon)の伝記としてはもっとも権威を認められている
「ハリ・セルダン伝」を著した。
 
この著作のあとがきでドーニックがセルダンから教わった問題として紹介しているのが、
今では〔ドーニックのパラドックス〕として知られている難題である。
 
このパラドックスにはドーニックの名が冠されているものの、
ドーニックの発案になるものでもないし、
また、セルダンが発案した問題でもない。
詳細が不明な口承ではあるが
エンタン朝の銀河帝国皇帝であるクレオン1世(Cleon I)が
当時宰相であったセルダンに問いただした問題であったという。
クレオン1世は「私にはこのように自由に使えるクレジットなぞないのだが」
と自嘲気味に付け加えながら出題したとも伝えられる。

※クレジット:銀河帝国末期に流通していた貨幣単位。
2クレジットの鉄のコイン1枚でヴェガ産の高級タバコが1本買えたという。
 
ドーニックのパラドックスとして標準的に流通しているテキストの形で以下に問題を紹介しよう。
 
――――
 
皇帝が見分けのつかない二つの封筒をあなたに渡す。
その封筒には、それぞれある額のお金が入っている。
皇帝はある種の電子遊戯機器を操作することで正の整数を選び、
単位をクレジットとしたその数の額面の小切手を片方の封筒に、
その数の2倍の額面の小切手をもう片方の封筒に入れたのである。
すなわち、一方の封筒に入っているお金は、もう一方の封筒にはいっているお金の2倍である。
あなたは、その二つの封筒から一つを選んで、その中のお金を受けとることが出来る。
一方の封筒をランダムに選び、開いてみると、そこには100クレジットの額面の小切手が入っている。
 
ここで皇帝は、もう一方の封筒と取り替えてもよいと申し出た。
少しでも金銭が得になるようにするには、あなたはどうするべきか。
 
皇帝が封筒のなかの小切手の額面を決めた電子遊戯機器の仕組みを以下に記す。
 
ボタンを1回押すとディスプレイに正の整数がひとつ表示される。
奇数が表示される確率を次に示す。

定数 C を 4/(π^2) とする。πは円周率。
 
奇数を a とする。奇数 a が電子遊戯機器に表示される確率 P(a) は
P(a) = C/(a^2)
である。これは奇数aの2乗の逆数に比例定数Cを乗じたものである。
 
また、偶数を b とする。
偶数 b が電子遊戯機器に表示される確率 P(b) は
P(b) = P(b/2)/2
で与えられる。
 
このようにPが定義されていれば、全ての整数について、
電子遊戯機器に表示される確率が求められるし、また、その総和は 1 である。
 
――
 
さて、皇帝の前にあなたがいるシーンに戻ろう。
 
目の前に100クレジットの小切手が見えている。
 
あなたは推理する。ふたつの可能性があると。
 
ケースA:皇帝が電子遊戯機器に 100 が表示されているのを確認し、
100クレジットの小切手と200クレジットの小切手とを用意し、
それぞれを封筒に入れた。
ふたつの封筒からあなたがランダムに選んだ封筒の中身が 100 クレジットだった。
 
ケースB:皇帝が電子遊戯機器に50が表示されているのを確認し、
50 クレジットの小切手と 100 クレジットの小切手とを用意し、それぞれを封筒に入れた。
ふたつの封筒からあなたがランダムに選んだ封筒の中身が 100 クレジットだった。
 
あなたはさらに推理する。ふたつケースはそれぞれどのくらいの割合で発生するものであろうか。
 
電子遊戯機器の性質をかんがみると、
P(b) = P(b/2)/2
であるから
P(100) = P(50)/2
である。
P(100)はP(50)の半分。
 
すなわち、ケースAが起きている確率はケースBが起きている確率の半分。
 
ケースAでは、皇帝曰くの「もう一方の封筒と取り替えてもよい」に応じると
目の前にある 100 クレジットの小切手の換わりに、
もう一方の封筒のなかにある 200 クレジットの小切手を頂戴することになる。
100クレジット儲かる。
 
ケースBでは、皇帝曰くの「もう一方の封筒と取り替えてもよい」に応じると
目の前にある 100 クレジットの小切手の換わりに、
もう一方の封筒のなかにある 50 クレジットの小切手を頂戴することになる。
50クレジット損する。
 
ケースAが起きている確率はケースBが起きている確率の半分だから、封筒を交換すると
100クレジット儲かる確率が1/3で、50クレジット損する確率が2/3……
 
「もう一方の封筒と取り替えてもよい」の皇帝の提案に乗るとしたならば、
損得の期待値では、差し引きゼロであるようにみえる。
 
――
 
ここであなたは単純な見落としに気がつく。
 
《ケースAが起きている確率はケースBが起きている可能性の半分。》
 
《ふたつの封筒のうち額面が小さな方を選ぶケースAが起きる確率は、
ふたつの封筒のうち額面が大きな方を選ぶケースBが起きる確率の半分。》
 
《ふたつの封筒のうち額面が小さな方を選ぶ確率は、額面が大きな方を選ぶ確率の半分。》
 
これはおかしな気がする。
そもそも額面が小さいほうを選ぶか大きいほうを選ぶかの確率は半々なのでは? 
片方を開封して 100 クレジットの小切手を確認する前は、
たしかに大きい額面の小切手を選ぶ確率は半々のはずだ。
 
それがどうして、 100 クレジットをこの目で見た瞬間から、前者の確率は後者の確率の半分になるのだろう。
 
――――
 
以上がドーニックのパラドックスである。
 
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