「たこ焼き用意してあるか?」
「ちゃんと用意してますよ、加藤先輩。心配ご無用です」
大学のミステリー研究サークルに所属する、お調子者で目立ちたがり屋の大学二年生の加藤とその後輩でサークルただ一人の一年生である山村の会話である。
二人は後日行われるサークルの忘年会の企画係に選ばれており、王様ゲーム、山手線ゲーム等のゲームの他に単純に盛り上がれる企画として、ロシアンたこ焼きの実施を考えていた。
言うまでもないがロシアンたこ焼きとはロシアンルーレットのたこ焼き版で、たこ焼きの中にからし等をたっぷり入れ、うっかり食べてしまった人のリアクションを楽しむものである。
「やっぱり辛いものたっぷりって感じの方がいいかな」
加藤が中身について吟味する。山村はそうですね、と相槌を打った。
その後も話は続いたが、実はこれが、殺害計画の一部だった。
「かんぱーい!」
ミステリー研究サークルの一人が所有していた、孤島に存在する館――ミステリー研究サークルの人間は「二十角館」と呼んでいた――で、その声は上がった。
グラスのかち合う音が、忘年会の開始を告げるように響き、一斉に飲み物を流しこむ。大学二年生以上で成人を迎えた人物はビール等の酒類を飲んでいたが、まだ20歳を迎えてない人物はストローを挿したオレンジジュースだ。しかし、山村は飲む振りをするに留めた。
このように、今回集まった人物は未成年者飲酒禁止法を守る人物で形成されていた。さらに全員が現役合格者であり、これだけを見れば感心の若者という評価だろう。しかし、裏では殺人計画の進行中である。
暫くは各人料理をつつき合い談笑する時間が続いたが、談笑が一段落して遂にその時間はやってきた。
「ロシアンたこ焼きでーす。1個だけ大量のからしが入ってまーす」
ロシアンたこ焼きのスタートである。加藤の命令によって山村はたこ焼きを運んでくる。たこ焼きは全部で10個、皿に乱雑に並べられており、見た目での区別は全くできなかった。
「じゃあ、皆1個ずつ取って」
その発言を契機にして、まず山村が1つ、隣がまた1つとたこ焼きを箸で取っていく。
「残り物には福がある、って言うからな」
加藤はそう言いながら最後に残った1つを取る。これで全員がたこ焼きを1つ持っていることになる。
「じゃあ、せーので口に入れるぞ。せーの!」
加藤の合図で全員がたこ焼きを口に含んで咀嚼しながら、皆の様子を窺う。そのとき、加藤の様子が一変した。
ゴホッ、ゴホッ、と咳き込みながら加藤が体をよじる。残り物には福がある、という前振りも効いて周りは大爆笑。
加藤を見兼ねたように、隣に座っていた山村がオレンジジュースの入ったグラスを差し出す。加藤はそれを苦しそうにしながらも飲んだ。
しかし、加藤は苦しみ続け、もがいて持っていたオレンジジュースのグラスを手放して倒す。遂には床に倒れて動かなくなった。
「ちょっと、何してるんですか」
山村は冗談のように笑いながら、皆を手招きする。テーブルの向かい側に座っていたサークル員を含めた全員がいつもの加藤の悪ふざけだろう、と異変に気付かず集まってきた。
しかし、いつまで経っても加藤は動かない。そして、山村が加藤の脈を確かめて呟いた。
「死んでる……」
「そんな……」
静寂が辺りを包む。そして幾らかの時間が経ったとき、また加藤の様子が一変した。なんと、加藤は何事もなかったかのように起き上がったのである。
「はい、ここまで」
そして、言葉を発する。加藤と山村を除いた全員が呆気にとられた様子で加藤を見た。加藤はそれすらも気にしないように続けた。
「今までのは、俺と山村とで考えた殺人計画を元にした演技だ。皆にはこの殺人計画の真相を考えてもらう。人物の設定はそのまま俺と山村と考えてくれていい」
「私は殺人計画を実行しそうってことですか」
山村は加藤を白い目で見たが、加藤はそこは重要ではない、と流した。
「山村が殺人計画を実行するはずがない、なんて考えなくていいぞ。俺の誕生日が2月だとか、血液型がAB型だとかも関係ない」
山村はそりゃそうだ、と思いながら口には出さなかった。
「さて、今回の事件で気になるところはやはり殺害方法だろう。なお、殺人犯は山村という前提で考えてもらって構わない。重要なのは、山村は如何にして意図的に俺を殺したのか、だ」
如何にして俺を殺した、とは不思議な響きだ。
「まず、毒はそこで倒れているオレンジジュースとストローとグラスにはない」
未だテーブルに残っている、転がったグラス、零れたジュース、同じく転がったストローを指して言った。
「じゃあ、毒が入っていたのはたこ焼きってことですか?」
サークル員の一人が尋ねる。
「さあね。仮にたこ焼きに毒が入ってたとして、どうやって毒入りを選ばせたのかという問題があるがな」
「加藤先輩が選んだのは最後でしたからね。実質選んでないに等しいです」
山村がフォローを入れた。
「ちなみに、俺以外が協力して毒なしを選んだなんてことはない」
その通りである。そもそも協力していたらクイズにならないし、仮に協力しようとしたとしても、あのたこ焼きは並べ方も乱雑に置かれているだけで指示のしようもない。勿論区別など付かなかった。
「ま、今回はあくまでクイズだから、ちょっとアンフェアかもしれないがな。さあ、では真相を暴いてみてくれ」
加藤は調子良く言った。
それでは、問題だ。
この計画の設定上で行われたトリックは?
>>13 ヒント追加
紅巾 2016/01/04 03:27
「ちゃんと用意してますよ、加藤先輩。心配ご無用です」
大学のミステリー研究サークルに所属する、お調子者で目立ちたがり屋の大学二年生の加藤とその後輩でサークルただ一人の一年生である山村の会話である。
二人は後日行われるサークルの忘年会の企画係に選ばれており、王様ゲーム、山手線ゲーム等のゲームの他に単純に盛り上がれる企画として、ロシアンたこ焼きの実施を考えていた。
言うまでもないがロシアンたこ焼きとはロシアンルーレットのたこ焼き版で、たこ焼きの中にからし等をたっぷり入れ、うっかり食べてしまった人のリアクションを楽しむものである。
「やっぱり辛いものたっぷりって感じの方がいいかな」
加藤が中身について吟味する。山村はそうですね、と相槌を打った。
その後も話は続いたが、実はこれが、殺害計画の一部だった。
「かんぱーい!」
ミステリー研究サークルの一人が所有していた、孤島に存在する館――ミステリー研究サークルの人間は「二十角館」と呼んでいた――で、その声は上がった。
グラスのかち合う音が、忘年会の開始を告げるように響き、一斉に飲み物を流しこむ。大学二年生以上で成人を迎えた人物はビール等の酒類を飲んでいたが、まだ20歳を迎えてない人物はストローを挿したオレンジジュースだ。しかし、山村は飲む振りをするに留めた。
このように、今回集まった人物は未成年者飲酒禁止法を守る人物で形成されていた。さらに全員が現役合格者であり、これだけを見れば感心の若者という評価だろう。しかし、裏では殺人計画の進行中である。
暫くは各人料理をつつき合い談笑する時間が続いたが、談笑が一段落して遂にその時間はやってきた。
「ロシアンたこ焼きでーす。1個だけ大量のからしが入ってまーす」
ロシアンたこ焼きのスタートである。加藤の命令によって山村はたこ焼きを運んでくる。たこ焼きは全部で10個、皿に乱雑に並べられており、見た目での区別は全くできなかった。
「じゃあ、皆1個ずつ取って」
その発言を契機にして、まず山村が1つ、隣がまた1つとたこ焼きを箸で取っていく。
「残り物には福がある、って言うからな」
加藤はそう言いながら最後に残った1つを取る。これで全員がたこ焼きを1つ持っていることになる。
「じゃあ、せーので口に入れるぞ。せーの!」
加藤の合図で全員がたこ焼きを口に含んで咀嚼しながら、皆の様子を窺う。そのとき、加藤の様子が一変した。
ゴホッ、ゴホッ、と咳き込みながら加藤が体をよじる。残り物には福がある、という前振りも効いて周りは大爆笑。
加藤を見兼ねたように、隣に座っていた山村がオレンジジュースの入ったグラスを差し出す。加藤はそれを苦しそうにしながらも飲んだ。
しかし、加藤は苦しみ続け、もがいて持っていたオレンジジュースのグラスを手放して倒す。遂には床に倒れて動かなくなった。
「ちょっと、何してるんですか」
山村は冗談のように笑いながら、皆を手招きする。テーブルの向かい側に座っていたサークル員を含めた全員がいつもの加藤の悪ふざけだろう、と異変に気付かず集まってきた。
しかし、いつまで経っても加藤は動かない。そして、山村が加藤の脈を確かめて呟いた。
「死んでる……」
「そんな……」
静寂が辺りを包む。そして幾らかの時間が経ったとき、また加藤の様子が一変した。なんと、加藤は何事もなかったかのように起き上がったのである。
「はい、ここまで」
そして、言葉を発する。加藤と山村を除いた全員が呆気にとられた様子で加藤を見た。加藤はそれすらも気にしないように続けた。
「今までのは、俺と山村とで考えた殺人計画を元にした演技だ。皆にはこの殺人計画の真相を考えてもらう。人物の設定はそのまま俺と山村と考えてくれていい」
「私は殺人計画を実行しそうってことですか」
山村は加藤を白い目で見たが、加藤はそこは重要ではない、と流した。
「山村が殺人計画を実行するはずがない、なんて考えなくていいぞ。俺の誕生日が2月だとか、血液型がAB型だとかも関係ない」
山村はそりゃそうだ、と思いながら口には出さなかった。
「さて、今回の事件で気になるところはやはり殺害方法だろう。なお、殺人犯は山村という前提で考えてもらって構わない。重要なのは、山村は如何にして意図的に俺を殺したのか、だ」
如何にして俺を殺した、とは不思議な響きだ。
「まず、毒はそこで倒れているオレンジジュースとストローとグラスにはない」
未だテーブルに残っている、転がったグラス、零れたジュース、同じく転がったストローを指して言った。
「じゃあ、毒が入っていたのはたこ焼きってことですか?」
サークル員の一人が尋ねる。
「さあね。仮にたこ焼きに毒が入ってたとして、どうやって毒入りを選ばせたのかという問題があるがな」
「加藤先輩が選んだのは最後でしたからね。実質選んでないに等しいです」
山村がフォローを入れた。
「ちなみに、俺以外が協力して毒なしを選んだなんてことはない」
その通りである。そもそも協力していたらクイズにならないし、仮に協力しようとしたとしても、あのたこ焼きは並べ方も乱雑に置かれているだけで指示のしようもない。勿論区別など付かなかった。
「ま、今回はあくまでクイズだから、ちょっとアンフェアかもしれないがな。さあ、では真相を暴いてみてくれ」
加藤は調子良く言った。
それでは、問題だ。
この計画の設定上で行われたトリックは?
>>13 ヒント追加