不気味な部屋 ≫No. 1
木有恵尊
2012/03/17 17:31
玄関の鍵を開けようとした時、「大沼君!」と後ろから声が聞こえた。大家である鉄谷町子の声だ。
大家は、オカルト話をするのが好きだった。つい最近も、「幽霊が刀を使って人を殺した事件があったらしいのよお」と自慢げに話していた。全くもって胡散臭い。
「大家さん、僕は疲れてるんで早く寝たいんですけど。……って、どうしたんですか、その鼻のティッシュ」
「いや実はね、慌てて部屋を飛び出した時に、鼻を思い切り打っちゃって、鼻血が出ちゃったのよ」
「何で慌てて部屋を飛び出しちゃったんですか」大沼は頭を抱えながら訊く。
「私が自分の部屋でそろばんをいじっていた時に、不気味な気配を感じたの」
「不気味な気配?」
「冷や汗を垂らしながら窓の外を見てみると、動く人影があって」
「それはただの通行人じゃないですか?」
「上を見たら、電飾の紐が微かに揺れていて」
「きっと隙間風だと思いますが」
「後ろを向いたら、襖が少し開いていて」
「多分閉め忘れたんですよ」
「そして壁に掛けられている鏡を見たら、鼻にティッシュを突っ込んだ不細工な女がいて!」
「……それ、大家さん自身ですから」
「それで怖くなって、部屋を飛び出したってわけ。まあちゃんと思い返せば、全部自分の思い過ごしだったんだけどね」
大家が舌をぺろりと出す。吐き気を催したところで、「あっ」と声を発した。
「え、何、どうしたの?」
先ほどの大家の言葉を思い出して、汗が流れる。肌が粟立った。
「大家さん」と震える声で言う。「大家さんの証言が本当なら、おかしいですよ」
さて、大沼はどこがおかしいと思ったのか。
木有恵尊 2012/03/17 17:31
大家は、オカルト話をするのが好きだった。つい最近も、「幽霊が刀を使って人を殺した事件があったらしいのよお」と自慢げに話していた。全くもって胡散臭い。
「大家さん、僕は疲れてるんで早く寝たいんですけど。……って、どうしたんですか、その鼻のティッシュ」
「いや実はね、慌てて部屋を飛び出した時に、鼻を思い切り打っちゃって、鼻血が出ちゃったのよ」
「何で慌てて部屋を飛び出しちゃったんですか」大沼は頭を抱えながら訊く。
「私が自分の部屋でそろばんをいじっていた時に、不気味な気配を感じたの」
「不気味な気配?」
「冷や汗を垂らしながら窓の外を見てみると、動く人影があって」
「それはただの通行人じゃないですか?」
「上を見たら、電飾の紐が微かに揺れていて」
「きっと隙間風だと思いますが」
「後ろを向いたら、襖が少し開いていて」
「多分閉め忘れたんですよ」
「そして壁に掛けられている鏡を見たら、鼻にティッシュを突っ込んだ不細工な女がいて!」
「……それ、大家さん自身ですから」
「それで怖くなって、部屋を飛び出したってわけ。まあちゃんと思い返せば、全部自分の思い過ごしだったんだけどね」
大家が舌をぺろりと出す。吐き気を催したところで、「あっ」と声を発した。
「え、何、どうしたの?」
先ほどの大家の言葉を思い出して、汗が流れる。肌が粟立った。
「大家さん」と震える声で言う。「大家さんの証言が本当なら、おかしいですよ」
さて、大沼はどこがおかしいと思ったのか。