ビン・ボウ警部補の事件録・I『フラン・ボウの事件録』 ≫No. 1
空蝉
2012/03/06 10:33
その日も、大手銀行『バンク・バンク』支店は、昼下がりというこの時間帯にふさわしい、それなりの数の利用者たちで賑わっていた。
いつもと変わらぬ、見慣れきった光景だった。
たいして用もないくせに毎日決まったように足を運んでは、窓口の一つで愚痴らしきものを吐き出し続ける老婆、せわしなく店内と事務室を行ったり来たりする店長、金融街ともあってか、ビジネスパーソンと思われる男女の往来も頻繁だ。
だが、この日の銀行には、見慣れぬ客がひとり、いた。
先ほどからずっと長椅子に座り、文庫本を開いているその男は、開店して間もなく入ってきたかと思うと、ずっとそのままなのだ。
別に不審な行動があるわけではない。だが、銀行の専属警備員の一人、サム・プライムは、男の様子が気になり、常に目を遣っていたのだった。
すると、男は突然、本をポケットに仕舞うと、ゆっくりと立ち上がり、すぐ前を行き過ぎる女性店員の背後へ回り、羽交い絞めにし、ポケットからナイフを取り出し、女性店員の首元に突き付け――
「みんな、動くんじゃねえ!」
一瞬にして、店内が凍りついた。銀行強盗か。誰もがそう思ったが、次に男はこんなことを言った。「いいか、てめえら一歩たりとも動くんじゃねえぞ! 俺は今からこの女をさらっていく!それ以外には何も要らん!おとなしくしていてくれたら、誰も血を見ずにすむ。なぜこんなことをするかと言うと、俺は前からこいつに惚れていたが、29回告白して断られたからなんだ! だから、こんな強引な手段を講じるよりほかはなかったんだ!」
サムが何か行動を起こそうとしている様子を見て、男は微笑混じりに言った。「何もしない方がいいぜ。見ろ。外にポストがあるだろう?実は、その中に爆弾を仕掛けておいたんだ。店内の誰かが一歩でも動くと、瞬く間のうちに爆発する仕掛けになっているんだぜ。威力は半端ねえ。この銀行どころか、外の通り、はたまた向かいのレストランまで、一瞬にしてドカンさ」
男は女性店員を羽交い絞めにしたまま、ゆっくりと後ずさりながら、出口へと向かっていく。
サムは迷っていた。爆弾は男のハッタリかもしれないが、もしそうでなかった場合、うかつに動くのはまずい。どうするか・・・・・・。
だが、この様子を見ていた一人の少年が、隣にいた警備員のサムのズボンの裾を引っ張った。
「なんだい?坊や」
「あの男の言うことはハッタリだよ。だから、安心して飛びかかればいい」
「なぜ・・・・・・。あ、そうか! 男と人質が動いているから、もし爆弾があれば爆発しているはず!じゃあやはり、ハッタリか!よし、それなら・・・・・・」
「おっと、ひとつ言い忘れたが・・・・・・」男は言った。「爆弾についてだが、俺とこの女だけは動いても爆発しないように設定してあるから大丈夫なんだ。だから、てめえらは動くなよ?くっくっく・・・・・・」
「くそっ!読みが甘かったか!」
「ううん、そうでもないよ」少年が言った。「やっぱり、あの男の言うことはハッタリなんだ」
ビン・ボウ警部補の息子、フラン・ボウ(7歳)の推理とは?
空蝉 2012/03/06 10:33
いつもと変わらぬ、見慣れきった光景だった。
たいして用もないくせに毎日決まったように足を運んでは、窓口の一つで愚痴らしきものを吐き出し続ける老婆、せわしなく店内と事務室を行ったり来たりする店長、金融街ともあってか、ビジネスパーソンと思われる男女の往来も頻繁だ。
だが、この日の銀行には、見慣れぬ客がひとり、いた。
先ほどからずっと長椅子に座り、文庫本を開いているその男は、開店して間もなく入ってきたかと思うと、ずっとそのままなのだ。
別に不審な行動があるわけではない。だが、銀行の専属警備員の一人、サム・プライムは、男の様子が気になり、常に目を遣っていたのだった。
すると、男は突然、本をポケットに仕舞うと、ゆっくりと立ち上がり、すぐ前を行き過ぎる女性店員の背後へ回り、羽交い絞めにし、ポケットからナイフを取り出し、女性店員の首元に突き付け――
「みんな、動くんじゃねえ!」
一瞬にして、店内が凍りついた。銀行強盗か。誰もがそう思ったが、次に男はこんなことを言った。「いいか、てめえら一歩たりとも動くんじゃねえぞ! 俺は今からこの女をさらっていく!それ以外には何も要らん!おとなしくしていてくれたら、誰も血を見ずにすむ。なぜこんなことをするかと言うと、俺は前からこいつに惚れていたが、29回告白して断られたからなんだ! だから、こんな強引な手段を講じるよりほかはなかったんだ!」
サムが何か行動を起こそうとしている様子を見て、男は微笑混じりに言った。「何もしない方がいいぜ。見ろ。外にポストがあるだろう?実は、その中に爆弾を仕掛けておいたんだ。店内の誰かが一歩でも動くと、瞬く間のうちに爆発する仕掛けになっているんだぜ。威力は半端ねえ。この銀行どころか、外の通り、はたまた向かいのレストランまで、一瞬にしてドカンさ」
男は女性店員を羽交い絞めにしたまま、ゆっくりと後ずさりながら、出口へと向かっていく。
サムは迷っていた。爆弾は男のハッタリかもしれないが、もしそうでなかった場合、うかつに動くのはまずい。どうするか・・・・・・。
だが、この様子を見ていた一人の少年が、隣にいた警備員のサムのズボンの裾を引っ張った。
「なんだい?坊や」
「あの男の言うことはハッタリだよ。だから、安心して飛びかかればいい」
「なぜ・・・・・・。あ、そうか! 男と人質が動いているから、もし爆弾があれば爆発しているはず!じゃあやはり、ハッタリか!よし、それなら・・・・・・」
「おっと、ひとつ言い忘れたが・・・・・・」男は言った。「爆弾についてだが、俺とこの女だけは動いても爆発しないように設定してあるから大丈夫なんだ。だから、てめえらは動くなよ?くっくっく・・・・・・」
「くそっ!読みが甘かったか!」
「ううん、そうでもないよ」少年が言った。「やっぱり、あの男の言うことはハッタリなんだ」
ビン・ボウ警部補の息子、フラン・ボウ(7歳)の推理とは?