クイズ大陸



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失われた気配 ≫No. 1
?空蝉 2012/03/03 14:55囁き
 犯罪結社『ダークワークス』の新入りである俺は、この日、同業者との取引を終え、社への帰路についていた。

そこへ上司から無線が入った。
<取引は無事成立したか?>
「ええ、大丈夫です。ちょろいもんでしたよ。あんなはした金に好条件で食い付いてきてくれたんですから」
<調子に乗るな。お前が新入りだから、簡単な仕事を与えただけだ>
「わかってますよ。で、わざわざその簡単な取引の成否を案じて無線で確認を?」
<いや、少しばかり忠告があってな>
 そこで上司の声のトーンが一段階落ちた。
<お前、今、つけられてるぞ>
「尾行ですか?」
<そうだ>

 俺はこっそりと後ろを伺った。
 幅広の一本道。専業主婦と思われる年配の女が一人、会社員風の背広姿の男が一人、犬を連れた老人が一人、ニット帽の見るからに怪しい男が一人、その他、制服姿の高校生と見られる男女のグループや、観光だろうか、カメラを手に、大きな声で賑わいを見せている外国人の集団があった。

「・・・・・・この中に尾行者が?」
<ああ。実は、俺は今、社の屋上から双眼鏡でそちらの様子を伺っているが、たぶん警察だろうな。巧みな変装で、お前をつけているみたいだぜ」
「俺をつけて、結社のありかを突きとめるつもりですね」

 だが俺は慌てなかった。なんせ俺には、人の「気配」を探る特殊な能力があるのだから・・・・・・。
 
 そもそも、俺が結社に雇われたのは、この特殊な能力を買われてのことだった。「気配」とは、言わば人間から無意識のうちに発散される「気」のようなもので、たとえば、複数の人間が集まっており、その中で、他のメンバーとは違う、特異な性質を持つ人間がいた場合、そいつの持つ「気配」は、その他の人間の持つ「気配」とは異なるのだ。
 俺はそういった特異な人間の持つ「気配」と、その他の人間持つ「気配」との違いを感じ取り、性質の違う人間を特定することができる。

 今回の場合、尾行している奴の「気配」が、そうでない奴の「気配」とは異なるために、俺は、尾行者の正体を暴きだすことができるという算段だ。

「ご心配なく。尾行者を特定次第、うまく巻いて帰りますから」
 俺は後ろに意識を集中させ、「気配」の読み取りにかかった。しかし――

「・・・・・・あれ?」
 どうしたことか、後ろのいかなる連中からも、異質な気配の突出は見られなかった。

「馬鹿な・・・・・・」
 俺は上司に無線で確認を取った。
「なあ、ボス。本当に尾行はついているのか?」
<ああ、間違いない。・・・・・・それと、唐突に敬語から私語に移行するのはやめてもらえるだろうか?>
 
 だが、人が「気配」を消すことや、意図的に「気配」の性質を変えることは不可能だ。たとえどんなに巧みな演者でも、「気配」を操作することは絶対にできない。
 もちろん、この日の俺の能力にも支障はない。では、いったいどういうことだ・・・・・・。

 だが、俺はしばらく考えたのち、見事、尾行の正体、そして、俺が特異な気配を感じることのできなかった理由に行きつくことができた。
 これら二つについて、答えて欲しい。 
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