ビン・ボウ警部補の事件録・F『証言の違和感』 ≫No. 1
空蝉
2012/01/16 11:56
「・・・・・・それにしても、結婚披露宴会場で殺人事件とはねえ・・・・・・」利子刑事が、隣の中・流刑事に言った。「これじゃあ、結婚式も中止だな。あ、そうか!だからこそ血痕(結婚)のない死体なのか。くっくっく、われながらうまい掛け方だ」
「利子刑事、冗談を言ってもいい状況ではありませんよ」
今二人がいるのは、町の中心にある結婚式場だ。結婚式当日の今日、会場の最終点検のために、会場関係者が早朝ホールへ入ったところ、ホールのど真ん中に死体が横たわっているのを発見したというわけだ。
「冗談ではなく、言葉の芸術と言いたまえ」
「利子刑事の頭の辞書には、『不謹慎』の三文字はないんですかね」
ビン・ボウ警部補が現場に駆けつけた。「いやあ、すまんすまん。娘のコペイカが学校をずる休みしたいとワガママ言ってたので、それに対処していてね」
「そりゃあ学校も休みたくなりますよ。どうせ、父親が貧乏だからって、みんなにいじめられるのが嫌なんだ」
中流がまた禁句を言ったが、ビン・ボウ警部補は黙殺した。「それで、被害者は?」
「こちらです」利子刑事が説明を始める。「身元不明の死体です。見てわかるように、胴体は仰向けですが、首が180度曲がって、顔だけ床に向いています。言うまでもなく、首の骨を折られたのが死因でしょう。たぶん結婚式の参加者の一人なのだと思いますが・・・・・・」
「ふむ・・・・・・。で、この現場はもう公になっているのかね?」ビン・ボウ警部補が訊いた。
「いえ、死体を見たのは発見者の会場関係者、まあ、この建物の従業員ですが、一人だけです」
「ということは、今外にいる新郎新婦をはじめ、その他大勢の参加者は、まだ何も知らないのか」
「そういうことですね。まあ、今日の結婚式は中止でしょう」
「ちょっと、外にいる連中の中から何か人呼んで、被害者に心当たりがないか訊いてみるか?」
「え、現場を見せるのですか?」
「そうだ。いけないか?」
「・・・・・・」
手始めに、4人の人物が呼ばれた。一人はタキシードに身を包んだ中年の男で、もう一人は黒いドレスの女。三人目は女の手に抱かれた赤ん坊で、この三人はきっと夫婦、親子の関係だろう。最後の一人はどこかしら情けない表情の青年だ。身なりは式典にそぐわぬ、薄汚いものだった。
ビン・ボウ警部補は、死体のそばに4人を呼んで、被害者に心当たりがあるか質問した。
タキシードの男は、まるで汚いものでも見るようにそれを見下ろしながら「知らない奴だ」と答えた。
続いて女。「私、目が見えないんです。すみません」と言った。中年男の腕に、自分の腕を回している。
赤ん坊。「ばぶーーーーー!(まさか、赤ん坊の僕が人を殺すなんて考えてないよね!)」。女のもう一方の腕の中で、無邪気にもがいている。
情けない表情の青年はというと、「僕、むごいの嫌いなんで、現場は見たくないです」と顔をそむけた。
「ふう。この四人はもういいですかね?」中・流刑事が手帳に書きとめながら言った。
「いや・・・・・・」ビン・ボウ警部の目に光が走った。
「事件に関係しているのかどうかはわからんが、一人だけ、証言におかしいところがあるな」
さて、ビン・ボウ警部補の推理とは?
「利子刑事、冗談を言ってもいい状況ではありませんよ」
今二人がいるのは、町の中心にある結婚式場だ。結婚式当日の今日、会場の最終点検のために、会場関係者が早朝ホールへ入ったところ、ホールのど真ん中に死体が横たわっているのを発見したというわけだ。
「冗談ではなく、言葉の芸術と言いたまえ」
「利子刑事の頭の辞書には、『不謹慎』の三文字はないんですかね」
ビン・ボウ警部補が現場に駆けつけた。「いやあ、すまんすまん。娘のコペイカが学校をずる休みしたいとワガママ言ってたので、それに対処していてね」
「そりゃあ学校も休みたくなりますよ。どうせ、父親が貧乏だからって、みんなにいじめられるのが嫌なんだ」
中流がまた禁句を言ったが、ビン・ボウ警部補は黙殺した。「それで、被害者は?」
「こちらです」利子刑事が説明を始める。「身元不明の死体です。見てわかるように、胴体は仰向けですが、首が180度曲がって、顔だけ床に向いています。言うまでもなく、首の骨を折られたのが死因でしょう。たぶん結婚式の参加者の一人なのだと思いますが・・・・・・」
「ふむ・・・・・・。で、この現場はもう公になっているのかね?」ビン・ボウ警部補が訊いた。
「いえ、死体を見たのは発見者の会場関係者、まあ、この建物の従業員ですが、一人だけです」
「ということは、今外にいる新郎新婦をはじめ、その他大勢の参加者は、まだ何も知らないのか」
「そういうことですね。まあ、今日の結婚式は中止でしょう」
「ちょっと、外にいる連中の中から何か人呼んで、被害者に心当たりがないか訊いてみるか?」
「え、現場を見せるのですか?」
「そうだ。いけないか?」
「・・・・・・」
手始めに、4人の人物が呼ばれた。一人はタキシードに身を包んだ中年の男で、もう一人は黒いドレスの女。三人目は女の手に抱かれた赤ん坊で、この三人はきっと夫婦、親子の関係だろう。最後の一人はどこかしら情けない表情の青年だ。身なりは式典にそぐわぬ、薄汚いものだった。
ビン・ボウ警部補は、死体のそばに4人を呼んで、被害者に心当たりがあるか質問した。
タキシードの男は、まるで汚いものでも見るようにそれを見下ろしながら「知らない奴だ」と答えた。
続いて女。「私、目が見えないんです。すみません」と言った。中年男の腕に、自分の腕を回している。
赤ん坊。「ばぶーーーーー!(まさか、赤ん坊の僕が人を殺すなんて考えてないよね!)」。女のもう一方の腕の中で、無邪気にもがいている。
情けない表情の青年はというと、「僕、むごいの嫌いなんで、現場は見たくないです」と顔をそむけた。
「ふう。この四人はもういいですかね?」中・流刑事が手帳に書きとめながら言った。
「いや・・・・・・」ビン・ボウ警部の目に光が走った。
「事件に関係しているのかどうかはわからんが、一人だけ、証言におかしいところがあるな」
さて、ビン・ボウ警部補の推理とは?