珠について―少年と老婆の賭け― ≫No. 1
空蝉
2011/10/31 13:43
「これ、坊や」とある山道。三角帽子に古びた衣装という、いかにも魔女然とした老婆が、通りかかった少年に声をかけた。「わしと賭けをせんか?」
少年はこの怪しい老婆の唐突な申し出に一瞬虚を突かれたが、「賭け」に関しては病膏肓に入るこの少年、振りきることができずに承諾した。
「よろしい。ではこちらにおいでなさい」老婆は少年を近くに据えられた小さなウッドテーブルに促した。二人はテーブルを挟んで向かい合う。
「ルールは極めてシンプルじゃ。ここに一個の赤い珠がある。わしがこの珠を左右どちらかの手に握り、そなたが当てるというものじゃ。赤い珠を握る手を指摘することができればそなたの勝ち。逆の手を選べばそなたの負け。確率1/2のゲームじゃ。なお、手の指摘の仕方についてじゃが、必ず『右』か『左』のどちらかの言葉で、声に出して答えること。それ以外のことは言ってはならんし、わしの体に触れるのもいかん。指さして答えるのもいかん。その他、いかなる道具も使ってはならん。チャンスは一度。そなたが勝てば、わしの大事な魔法の杖をやろう。だが、負ければそなたの命を頂くからのう。ひひひひひひ」
(格率は1/2か・・・・・・。まあいい、俺に「無難」の二文字は似合わん。伸るか反るかの運試しだ)
少年が意気込む中、老婆には公正感からは程遠い、邪心があった。(ひひひ。馬鹿な小僧じゃ。おのれの勝つ確率はゼロしゃというのに。わしは賭けの条件に、『どちらから見て右か左か』についてはいっさい触れなかった。つまり、仮にわしが自分の右手に赤い玉を握っているとして、仮にこの小僧が『左』と言えば、『わしから見た左手』を開いてやればいい。逆に、小僧が『右』と言えば、文字通り、『小僧から見た右手(つまり、わしから見た左手)』を開いてやればいい。『右』『左』どっちに答えても赤い珠の握られたほうには行きつかん。端からこの小僧に勝ち目はないわ!!)
だが一方で、少年は(『どちらから見て右か左か』の言及はなかった。さらに、『右』か『左』かで答えなければならない以上、『あなたから見て右(左)』あるいは『右手(左手)』という言い方はできない。黙って指差すのも駄目だ。この婆さん、おそらくそこにつけ込むつもりだな。だが、心配はいらない。この賭けは1/2の確率で俺が勝つ!)
さて、少年の秘策とは?
少年はこの怪しい老婆の唐突な申し出に一瞬虚を突かれたが、「賭け」に関しては病膏肓に入るこの少年、振りきることができずに承諾した。
「よろしい。ではこちらにおいでなさい」老婆は少年を近くに据えられた小さなウッドテーブルに促した。二人はテーブルを挟んで向かい合う。
「ルールは極めてシンプルじゃ。ここに一個の赤い珠がある。わしがこの珠を左右どちらかの手に握り、そなたが当てるというものじゃ。赤い珠を握る手を指摘することができればそなたの勝ち。逆の手を選べばそなたの負け。確率1/2のゲームじゃ。なお、手の指摘の仕方についてじゃが、必ず『右』か『左』のどちらかの言葉で、声に出して答えること。それ以外のことは言ってはならんし、わしの体に触れるのもいかん。指さして答えるのもいかん。その他、いかなる道具も使ってはならん。チャンスは一度。そなたが勝てば、わしの大事な魔法の杖をやろう。だが、負ければそなたの命を頂くからのう。ひひひひひひ」
(格率は1/2か・・・・・・。まあいい、俺に「無難」の二文字は似合わん。伸るか反るかの運試しだ)
少年が意気込む中、老婆には公正感からは程遠い、邪心があった。(ひひひ。馬鹿な小僧じゃ。おのれの勝つ確率はゼロしゃというのに。わしは賭けの条件に、『どちらから見て右か左か』についてはいっさい触れなかった。つまり、仮にわしが自分の右手に赤い玉を握っているとして、仮にこの小僧が『左』と言えば、『わしから見た左手』を開いてやればいい。逆に、小僧が『右』と言えば、文字通り、『小僧から見た右手(つまり、わしから見た左手)』を開いてやればいい。『右』『左』どっちに答えても赤い珠の握られたほうには行きつかん。端からこの小僧に勝ち目はないわ!!)
だが一方で、少年は(『どちらから見て右か左か』の言及はなかった。さらに、『右』か『左』かで答えなければならない以上、『あなたから見て右(左)』あるいは『右手(左手)』という言い方はできない。黙って指差すのも駄目だ。この婆さん、おそらくそこにつけ込むつもりだな。だが、心配はいらない。この賭けは1/2の確率で俺が勝つ!)
さて、少年の秘策とは?