ビン・ボウ警部補の事件録・A『容疑者の嘘』 ≫No. 1
空蝉
2011/09/29 12:03
静寂と緊張が包み込む、薄暗く、狭く、湿気の立ちこめる部屋。ここはリキッド警察署の取調室。ビン・ボウ警部補と向かい合うのは、昨日起きた殺人事件の犯人として自首してきたカバウ氏だ。
「もう一度お訊ねしますが・・・」ビン・ボウ警部補は、取り調べが始まって以来、幾度となく口にした科白を、うんざりとした口調で、もう一度繰り返した。「本当にあなたが殺したんですか?」
「だから、さっきから言っているだろう。俺がヤツをあの世の住人にしてやったんだよ!いい加減くどいぜ、あんた・・・」
(しかし・・・)ビン・ボウ警部補は、どうも腑に落ちないといった様子で、カバウ氏にひたすら疑問の眼差しを投げかけている。
カバウ氏は地方のテレビ局に勤めるカメラマンだ。つい昨日、人を殺したんだと自首してきた。
被害者は、カバウ氏と同じ局に勤めるアナウンサーのマイク氏。テレビ局のメインゲート付近で倒れている所を発見された。死亡推定時刻は昨日の午後5時頃。死因は落下物の直撃。見事に脳天にヒットしていた。その落下物というのが、撮影に使う大型のテレビカメラで、マイク氏の傍に転がっていた。マイク氏は死亡当時、帽子を被っていたが、それが緩衝材となることはなかったようだ。また、マイク氏の所持していた財布及び手帳(おそらく仕事の予定が書き連ねられている)がなくなっていた。
カバウ氏の自白によると、マイク氏が局から出てくるところを見計らって、屋上からカメラを落としたらしい。
「カメラは紛れもなく普段俺が使っている物だし、指紋だってちゃんと付いているだろうが。俺はヤツが憎かったんだよ!・・・もう十分だろう!」マイク氏は目の前の渋り屋をねめつけた。
「マイク氏が出てくるところを見計らって、とおっしゃいましたが、そんなこと可能なんですか?屋上からでは、当然ながら建物内部の様子は見えない。マイク氏の出てくるタイミングを見極めるのは難しいと思いますが?」
「はっ!そんなことかい!簡単だよ。局の一階、フロアのゲート付近に監視カメラがあり、人の出入りの様子をばっちり捉えているんだ。その映像データを俺はノートパソコンで受信し、確認しながら、屋上でヤツが出てくるのを待ち構えていたのだ」
「にしても、地上から屋上まで約30メートルの高さがあります。よくぶつけられましたね」
「ああ、俺はこう見えて、大学時代『落とし者のカバウ』の異名で恐れられていたんだ。落下物に限定すれば、命中率には絶対的な自信がある。昨日も、奴のハゲ頭が見えるや否や、カメラを真っ逆さまさ!」
「・・・ふう、では最後。マイク氏は財布と手帳を取られていました。それらはまだ発見されていません。ということは、今もあなたが持っていることになる。今すぐこの場に提出するか、別の場所にあるのなら、ありかを教えてもらえますか?」
「・・・ああ、あれは捨てたぜ。ロクなもん入ってなかったんでな・・・」
「・・・カバウさん、やはりあなたはこの事件の犯人ではないようですな」
さて、ビン・ボウ警部補の推理の根拠とは?
空蝉 2011/09/29 12:03
「もう一度お訊ねしますが・・・」ビン・ボウ警部補は、取り調べが始まって以来、幾度となく口にした科白を、うんざりとした口調で、もう一度繰り返した。「本当にあなたが殺したんですか?」
「だから、さっきから言っているだろう。俺がヤツをあの世の住人にしてやったんだよ!いい加減くどいぜ、あんた・・・」
(しかし・・・)ビン・ボウ警部補は、どうも腑に落ちないといった様子で、カバウ氏にひたすら疑問の眼差しを投げかけている。
カバウ氏は地方のテレビ局に勤めるカメラマンだ。つい昨日、人を殺したんだと自首してきた。
被害者は、カバウ氏と同じ局に勤めるアナウンサーのマイク氏。テレビ局のメインゲート付近で倒れている所を発見された。死亡推定時刻は昨日の午後5時頃。死因は落下物の直撃。見事に脳天にヒットしていた。その落下物というのが、撮影に使う大型のテレビカメラで、マイク氏の傍に転がっていた。マイク氏は死亡当時、帽子を被っていたが、それが緩衝材となることはなかったようだ。また、マイク氏の所持していた財布及び手帳(おそらく仕事の予定が書き連ねられている)がなくなっていた。
カバウ氏の自白によると、マイク氏が局から出てくるところを見計らって、屋上からカメラを落としたらしい。
「カメラは紛れもなく普段俺が使っている物だし、指紋だってちゃんと付いているだろうが。俺はヤツが憎かったんだよ!・・・もう十分だろう!」マイク氏は目の前の渋り屋をねめつけた。
「マイク氏が出てくるところを見計らって、とおっしゃいましたが、そんなこと可能なんですか?屋上からでは、当然ながら建物内部の様子は見えない。マイク氏の出てくるタイミングを見極めるのは難しいと思いますが?」
「はっ!そんなことかい!簡単だよ。局の一階、フロアのゲート付近に監視カメラがあり、人の出入りの様子をばっちり捉えているんだ。その映像データを俺はノートパソコンで受信し、確認しながら、屋上でヤツが出てくるのを待ち構えていたのだ」
「にしても、地上から屋上まで約30メートルの高さがあります。よくぶつけられましたね」
「ああ、俺はこう見えて、大学時代『落とし者のカバウ』の異名で恐れられていたんだ。落下物に限定すれば、命中率には絶対的な自信がある。昨日も、奴のハゲ頭が見えるや否や、カメラを真っ逆さまさ!」
「・・・ふう、では最後。マイク氏は財布と手帳を取られていました。それらはまだ発見されていません。ということは、今もあなたが持っていることになる。今すぐこの場に提出するか、別の場所にあるのなら、ありかを教えてもらえますか?」
「・・・ああ、あれは捨てたぜ。ロクなもん入ってなかったんでな・・・」
「・・・カバウさん、やはりあなたはこの事件の犯人ではないようですな」
さて、ビン・ボウ警部補の推理の根拠とは?