7月1日。冷房の効いたビルから一歩外に出ると、そぼ降る小雨とムッとする熱気、
纏わりつくような湿気が身を襲う。しかし今日は懸案の仕事が一段落して、久しぶりに
銀座に向かうのだから、鬱陶しい梅雨空にも関わらず気持ちは晴れやかといっていいだろう。
それに今日は同僚のリチャードとレイチェルも一緒なのだから何だか楽しい夜になりそうだ。
例のマスターとはメールのやり取りをしているので、スーさんとスエさん、
椎良さんたちがときどき顔を見せているという情報は入っている。
帰国してから2か月、仕事に追われてすっかりご無沙汰だが「今日も皆来ている
だろうか?」などと少々期待に胸を躍らせながらゆっくりドアを開ける。
と…、カウンターに並んだ面々が一斉にこちらに顔を向ける。その各々の手には
マンハッタンが…。
「おや、お久しぶりですね。」とスーさんがすかさず声をかけてくる。
スエさんは今日も着物姿で端然とし微笑んでいる。
おや、飲めないはずの椎良さんの手にまでマンハッタンが…。
軽く会釈するマスターの笑顔でピンときた。
「マスターが皆に連絡したんだ。そしてマンハッタンは歓迎の証なんだ。」と。
その心遣いも嬉しいが、それに答えてくれる仲間の優しさがなんとも有難く心に浸みる。
「お〜、皆さん、ご無沙汰しております。偶然ですね。」などと一応トボケておいて、
取り敢えずリチャードとレイチェルを皆に紹介する。
「彼はリチャード、彼女はレイチェル。二人ともニューヨーク出身で私の同僚です。
4月に私と一緒に日本に赴任してきたんです。それに大の推理好き。
日本語は達者ですから会話は日本語でOKですよ。」
*
全員が止まり木に落ち着いたところで乾盃となり、しばし話がはずむ。
そんななか、スエさんがリチャードとレイチェルに質問。
「ところでリチャードさんとレイチェルさんは日本のどんなところに興味があるんですか?」
「私は日本の歴史に興味があります。日本語をもっと勉強してあっちこっち行きたいです。」
とリチャード。
「私も同じ。この前は鎌倉に行きました。」とレイチェル。
「あらそれなら私の町に来ませんか?私の町も歴史のある町ですよ。
お城もありますし。」
「お〜、それはどこですか?」とレイチェル。
「O市です。近くですから行くのも簡単ですよ。」
「是非行ってみたいです。」とリチャード。
「じゃ、今度の日曜日、5日はどうですか?私がご案内しますわ。」
「OK、お願いします。」とリチャード。
「私も。」とレイチェル。
「それなら儂も行ってみたいがいいかな?何やら門が復元されたとは聞いているんだが
まだ行っていないのでな。」
「じゃ、私も便乗しちゃおうかな?」と私。
「あらま〜、それじゃ纏めてみんな面倒見ちゃいましょ。椎良さんはどうされます?」
「もちろん参加させていただきますわ。丁度長編を1本書き上げたところで
時間はありますから。」
**
と、ここでスエさんがマスターにメモ用紙をもらうと、何やらサラサラと書き出した。
「実は以前から皆さんに解いてもらおうと、暗号問題を考えていたんです。
ちょうどこの状況にピッタリの問題ですから解いてみてくれませんか?」
「ほ〜、どれどれ。」とスーさん。
その紙片には次のような文章が…。
足跡を消しながら寺を巡り城址に来たれ。 2k3d2G1M2D3D 「これを解いていただいたら、フルアテンドでご案内しますわ。」
「あら、面白そうですね。今日こそマスターに頼らないで解きたいわ。」と椎良さん。
「私たちはまだ漢字がちゃんと読めませんから無理です。」とレイチェルが
私に助けを求める。
「よし、二人のために頑張ろう。」と私。
マスターはちらりと文章を眺めると、早くも虚空を見つめて考え出した。
***
さて、この暗号の示すものは?
****
このストーリーはフィクションであり、実在のものとはまったく関係がありません。
Yossy 2009/07/02 17:50
纏わりつくような湿気が身を襲う。しかし今日は懸案の仕事が一段落して、久しぶりに
銀座に向かうのだから、鬱陶しい梅雨空にも関わらず気持ちは晴れやかといっていいだろう。
それに今日は同僚のリチャードとレイチェルも一緒なのだから何だか楽しい夜になりそうだ。
例のマスターとはメールのやり取りをしているので、スーさんとスエさん、
椎良さんたちがときどき顔を見せているという情報は入っている。
帰国してから2か月、仕事に追われてすっかりご無沙汰だが「今日も皆来ている
だろうか?」などと少々期待に胸を躍らせながらゆっくりドアを開ける。
と…、カウンターに並んだ面々が一斉にこちらに顔を向ける。その各々の手には
マンハッタンが…。
「おや、お久しぶりですね。」とスーさんがすかさず声をかけてくる。
スエさんは今日も着物姿で端然とし微笑んでいる。
おや、飲めないはずの椎良さんの手にまでマンハッタンが…。
軽く会釈するマスターの笑顔でピンときた。
「マスターが皆に連絡したんだ。そしてマンハッタンは歓迎の証なんだ。」と。
その心遣いも嬉しいが、それに答えてくれる仲間の優しさがなんとも有難く心に浸みる。
「お〜、皆さん、ご無沙汰しております。偶然ですね。」などと一応トボケておいて、
取り敢えずリチャードとレイチェルを皆に紹介する。
「彼はリチャード、彼女はレイチェル。二人ともニューヨーク出身で私の同僚です。
4月に私と一緒に日本に赴任してきたんです。それに大の推理好き。
日本語は達者ですから会話は日本語でOKですよ。」
*
全員が止まり木に落ち着いたところで乾盃となり、しばし話がはずむ。
そんななか、スエさんがリチャードとレイチェルに質問。
「ところでリチャードさんとレイチェルさんは日本のどんなところに興味があるんですか?」
「私は日本の歴史に興味があります。日本語をもっと勉強してあっちこっち行きたいです。」
とリチャード。
「私も同じ。この前は鎌倉に行きました。」とレイチェル。
「あらそれなら私の町に来ませんか?私の町も歴史のある町ですよ。
お城もありますし。」
「お〜、それはどこですか?」とレイチェル。
「O市です。近くですから行くのも簡単ですよ。」
「是非行ってみたいです。」とリチャード。
「じゃ、今度の日曜日、5日はどうですか?私がご案内しますわ。」
「OK、お願いします。」とリチャード。
「私も。」とレイチェル。
「それなら儂も行ってみたいがいいかな?何やら門が復元されたとは聞いているんだが
まだ行っていないのでな。」
「じゃ、私も便乗しちゃおうかな?」と私。
「あらま〜、それじゃ纏めてみんな面倒見ちゃいましょ。椎良さんはどうされます?」
「もちろん参加させていただきますわ。丁度長編を1本書き上げたところで
時間はありますから。」
**
と、ここでスエさんがマスターにメモ用紙をもらうと、何やらサラサラと書き出した。
「実は以前から皆さんに解いてもらおうと、暗号問題を考えていたんです。
ちょうどこの状況にピッタリの問題ですから解いてみてくれませんか?」
「ほ〜、どれどれ。」とスーさん。
その紙片には次のような文章が…。
足跡を消しながら寺を巡り城址に来たれ。
2k3d2G1M2D3D
「これを解いていただいたら、フルアテンドでご案内しますわ。」
「あら、面白そうですね。今日こそマスターに頼らないで解きたいわ。」と椎良さん。
「私たちはまだ漢字がちゃんと読めませんから無理です。」とレイチェルが
私に助けを求める。
「よし、二人のために頑張ろう。」と私。
マスターはちらりと文章を眺めると、早くも虚空を見つめて考え出した。
***
さて、この暗号の示すものは?
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このストーリーはフィクションであり、実在のものとはまったく関係がありません。