書道家･緑川　青磁（みどりかわ　せいじ）（６０）、雅号・川　緑青（せん　ろくしょう）が殺害された。
被害者の自室にて、本人が使用していた硯で頭部を殴打され、失血したのが死因とされる。
現場はかなり争った後があり、本人直筆と思われるどっしりした文字の掛け軸や、ボトルごと倒された墨汁、
未使用の下書用半紙、画仙紙・短冊の類が散乱していた。
被害者の横たわる辺りには、本人の血痕と倒れた墨汁が入雑じっている状態であった。
犯人は硯に付いた自らの指紋を急いで拭き取った後、特に現場には手を触れずに脱走している様子。
被害者はどうも即死はせず、最期の力を振り絞って側にあった半紙に、転がっていた筆でこぼれた墨汁を付け、

^{ム　　　　　　ラ}　　　　　　サ　　　　　　_メ　

と書き、自らの左手でグシャグシャに丸めて握っている。その甲にはべっとり墨汁が付着している。
なお自宅の、書道を行う奥間での犯行ということもあり、被害者の親しい人間によるものと推測された。
以下の容疑者が浮かび上がった。


白地　澄雄（しろち　すみお）（６０）・・・ノンフィクション作家。ペンネーム・吐　酸味男（はく　すみお）。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ある漁村にジンベエ鮫が現れた事件をモチーフに、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「ムラに鮫が来る現代」を執筆、辛口描写がうけ空前のヒット作となる。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　被害者とは高校の同級生。このところ一緒にスナック通いをしていた。

赤丸　浄（あかまる　きよし）（５３）・・・書道用品・書本取扱の真留器（まるき）本店の社長権営業。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かなり距離のある被害者宅へ冷邨町（さめむらちょう）より売込みに出向いていた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　営業活動の成果か被害者は赤丸より、かなり高額な硯や文鎮を購入している。

緑川　早苗（みどりかわ　さなえ）（５０）・・・被害者の元妻。今はエステティシャン、自宅でエステ離楽棲（りらくす）を開業。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　被害者の女性交遊が原因で10年前に離婚。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　旧姓は「江村(えむら)」だが今も被害者と同姓を名乗っている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　子供を通して現在も交流あり、被害者には昔も今も「さな」と呼ばれていた。

黄村　雨月（きむら　うづき）（２７）・・・被害者の門下生の一人。雅号・黄　村雨（おう　そんう）。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　被害者とは師弟以上の関係があると兼ねてより噂がある。最近は作風が荒れており、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　その原因は、被害者に別の恋人が出来たせいとの更なる噂だが、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本人は噂の一切を否定している。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　
紫式部　蘭（ししきぶ　らん）（２２）・・・最近被害者が通っていた、スナック女都路（めとろ）のホステスで、源氏名パープル。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　童顔で、一部常連客からは「むらさきちゃん」と呼ばれる。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　被害者とも仲が良く、来店した時、紫式部の名刺に”ムラサキ”と小筆で書いて貰い、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　それを大切に所有していた。　

犯人は誰か?　理由と共に囁いて下さい。

☆１０月１０日追記：被害者の体格は比較的小柄で、少し前に病気を患ったこともあり、力自体はさして強くは無かった。

☆10月11日、カラー装飾を施しましたが、問題とは関係は御座いません