俺の名は尾曽根速男。中堅IT企業に勤めるサラリーマンだ。
　45歳。妻子あり（離婚歴あり、借金あり、波乱万丈の家族史あり）。役職はチョウチョだ。
　え？チョウチョって何だよって？
　はっきり言わせるなよう・・・・・・。ヒラだよ、ヒラ。チョウチョはヒラヒラ飛ぶだろう？
　もっとも俺には、チョウチョと違って止まる花などないがね。甘い蜜とは程遠い、毎日過酷な、疲労と困憊ばかりが蓄積する、辛い辛い日々を送っているよ。
　まあ、自己紹介はこのくらいにしておこう。諸君もなにかと忙しいだろうし、俺みたいなしがないサラリーマンのことなんて、聞きたくもないだろうからね。
　・・・・・・否定しないのかよ。ひどいなあ、まったく。
　さて、俺は今日、課長（痴漢と盗撮が趣味という、とんでもない野郎だ）に、明日ある会議についてこう言われた。
「明日、早朝会議を開く。開始時間はAM7:00。来なかったら、クビだ。以上」
　つまり、こういうことだ。俺は明日の朝、早起きしなければならない。
　
　・・・・・・というわけで、今から寝ることにする。
　明日は正念場ということで、今日は珍しく早く帰宅した。仕事はどっさり残っていたが、そんなことはどうでもいい。
　現在の時刻は、PM10:00。家から会社までは30分で行けるから、朝の身支度にかかる時間を考慮しても、明日のAM6:00に起きれば大丈夫だろう。ぐだぐだ言ってる暇はない。いざ、Let's 睡眠ing!。

　zzz...zzz...zzz...
（俺は今、夢を見ている。まったく、嫌な夢だ。ビデオカメラ片手に、課長が俺のケツを撫で回している・・・・・・。なんなんだよ、あんたは。ふざけるのは現実の中だけにしてくれ・・・・・・。
　そう思った次の瞬間、驚愕の一言を課長は言った。『目覚まし時計は、ちゃんとセットしたのかね？？』
　・・・・・・しまった！俺としたことが、眠りやすいよう、枕の形を整えるのに夢中で、目覚まし時計をセットし忘れていた！毎日の習慣だったのに、この日に限って忘れるとは！ちくしょう！課長の馬鹿野郎！・・・・・・）

　そして、朝。
　俺は慌てて目を覚ました。
　頭を起こすや否や、すぐに目覚まし時計を確認する。
　時計のデジタル表示は、AM5:54とある。
　・・・・・・良かった、寝坊せずに済んだ・・・・・・。
　ベッドから体を起こし、洗面所で顔を洗い、歯を磨き、ひげを剃り、スーツに着替え、朝食を取り、鞄を持ち、家を出る。
　単身赴任中なので、誰もいってらっしゃいとは言ってくれない・・・・・・。
　腕時計を見る。AM6:27。余裕だな。思わず自惚れる。　
　そして、AM6:50。会社の門を潜る・・・・・・。

　だが、結局俺は会議に間に合わず、クビになってしまった。
　どういうことだろう？
　目覚まし時計、腕時計は故障しておらず、時刻は極めて正確なものだったのだが・・・・・・。