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『コマー』と鳥川の事件簿#39
難易度:★★  
?駒一 2012/01/29 13:57
「で、鳥川さんはそれで落ち込んでいたんですね」
ため息をついたように警部補の鈴木綾香はお茶を淹れると僕の方へと差し出した。
背中に伸びる黒髪が揺れ、天然のかかった優しい表情が僕を見つめる。
「ああ、ごめんね……」
僕は申し訳なさそうに頭を下げた。
あの後、僕は『コマー』を殴り飛ばして逃げるように玄関から飛び出すと、
なぜか自然に綾香のアパートへと足を運んでいた。
というより、道の中心をとぼとぼと歩いていく僕を
たまたま通りがかりに綾香が拾ったというところだろうか。犬川に改名する頃合いかもしれない。
「ほんとに押しかけてごめんね。もうすぐ帰るから」
「いや、いいんですよ。というか、それより帰る家があるんですか?
 聞いた話によるとたしか、
アパートは半年前に解約して今はコマ―さんの事務所に住んでいると聞きましたが……」
その通りだ。僕には帰る家がもうどこにもない。ついでに帰る居場所も。
今はもう、『コマー』の親友でもなければ探偵助手でも奴隷でもない。
何の関係もなく、過去だけが僕を刃で切りつける赤の他人よりもひどい立場にいる。
「大丈夫だよ、お金はとりあえずあるし、ネットカフェにでも行って寝泊まりするから」
白い湯気を立てている湯呑を両手で覆うように掴み、
ゆっくりと時間をかけて熱いお茶をすする。ああ、日本茶って心にしみるなあ……。
「うーん……。あ、そうだ。私の家に泊まればいいんですよ!」
「ブッ……!!」
盛大にお茶を噴き出した。その勢いで舌を火傷し、気管にお茶が入り込み肺がむせかえる。
何これ、傷口というか突拍子のないところにしみるんですが。
ゲホゲホと咳をしながら、なんとか生還を果たすとまだ綾香はキョトンとした目つきで首をかしげていた。
「え、ちょ、ちょっと待って! 私の家になんだって?」
「だから、私の家に泊まればいいんですよ。
鳥川さんとコマ―さんが仲良くなれるまでの間だけでいいですし。
あ、そうだ! その間、家賃は半分だけ鳥川さん持ちって事で!」
「いやいやいやいや! そういうことじゃなくて!」
「そういうことじゃなくてというと?」
じっと僕を見つめ返し綾香は四つん這いで僕の方へ近寄ってくる。
「いや、その、なんというか年頃の男女が同じアパートで泊まるのを
お天道様というか、お父様お母様が許すのかなーと」
その言葉でうーむ、と綾香は正座に座り直し考えるとすぐにパッと笑顔で答えた。
「鳥川さんはたぶん、大丈夫です!」
この子の中で、僕が男に分類されているのか少し心配になった。

「それじゃ、電気消しますね―」
カチリとスイッチの切れる音が鳴り、部屋の明かりが消える。
お泊まり会みたいですね―、と僕の布団の横で寝転がった綾香が呑気に言うのを
そうだねぇ、と返して僕は白い二重円の残像の残る天井をみつめた。
あれー、どこでおかしくなった? この状況。
喧嘩する→知り合いの家に行く→一緒に寝泊まり。キャ!
誰も理解できねえよ、この展開。
「ところで鳥川さん、ここでクイズです!ウフフのフ―」
「ウフフのフ―って?」
「なんかテンションあがっちゃって。まあ置いときましょうよ、とにかくクイズです!」
テンションの上がりすぎで不祥事が起きないことに僕はとりあえず懇願。

「えっと、『まつたなきしかつよほきくしつなれきほましすきよ』です!」
「ま、松な木しか浴室なまま好きよ?」

思わず顔を横で寝転がっている綾香に向ける。
笑っているのかな? 
暗くて輪郭しか判断できなかったけど、なぜだか少しだけリラックスした。
うーん。つまり、ヒノキ風呂よりも松の木風呂の方が好みということだろうか?
松の木風呂。ある意味では非常に興味深い。
樹齢が五十年くらい超えた大樹の松からしか作れなさそうだ。
切り倒そうとしたところで植物愛護団体に訴えられそう。
「違いますよぉ―。
今日みたいな夜にはわからないですけど、
明日の朝になればスッキリと分かるおまじないです」
だんだんと慣れてきた目に月明かりで照らされた綾香の小さな笑顔が現れていく。
「まつたなき、しかつよほきく、しつなれきほ、ましすきよ……ねぇ……」
視線を綾香の顔から窓の向こうに移してゆっくり呟く。
「はい、まつたなき、しかつよほきく、しつなれきほ、ましすきよ、です」
復唱して綾香も呟く。窓の向こう側に見える夜空が本当に綺麗だ。
「あ、解けた」
思わず僕の口から出てきた言葉に、なぜか綾香は慌てて布団を自分の頭にかぶせ顔を隠してしまった。
うーん、解いて・・・・よかったんだよね?
僕も少し頬を人指し指で掻いて布団にくるまった綾香になんと言おうか言葉を選ぶ。
女心は難しいというし、選択は大変だな。ほんとに。大学選びより難易度が高いかも。
とりあえず、一番単純な言葉で感謝を伝えることにした。
「ありがとう、綾香」

その後、なぜか布団の中で綾香は長く悶え続けていたかと思うと、
しばらくしてみるといつの間にか静かに寝息を立ててしまっていた。

うーん………
もしかしたら、下の名前で呼ぶのは駄目だったのかもしれない。
Answer答え またなかよくなれますよ
■
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    ヒント知らないよ

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