そこには大きな屋根を持つ、全体を黒く塗った神社があった。天まで届くようなその立派な外見は、それを見る者全
てを魅了するに違いない。真っ赤に染められた寸胴な鳥居と、祀られているありがたい、ありがたい神様が、僕の心
をきつく締め付ける。神社の本堂の前にかっこよく立っている門は綺麗に黒光りし、じっと見ていると目が煌めく。
「何て感じの良い神社なんだ」と僕は思った。天才的なその造りは自分の中では最高だ。その神社には、ある一人の
巫女が住んでいたが、彼女の父親は昔、家出をしてそれ以降音沙汰もなく、彼女は母親から僅かな恵みを受けている
だけだった。彼女はすでに一人前の巫女になっていて、神社での仕事は全て覚えている。例えばお茶を飲みながらで
も、お祓いをすることが出来るし、弁当を食べながらでも、荼毘に付すことが出来る。彼女は大きさを比べることが
出来る布のような物を取り出し、徐に、自分の目の前でヒラヒラさせ始めたが、一体どこから持って来たのか、大き
めの福袋を片手に持ち、周りにいる観光客たちは全員、禄を食んでいる。彼らの独特な動きは、例えるなら寿司を握
っているようなイメージだ。僕はふと、自分の学生時代を思い出した。今、その懐かしい思い出にひたっている。「
あの時と同じ感覚だな」と僕は言った。彼女は笑い、自分の老けた顔を他人に見られたくないのか、ずっとそっぽを
向いたままだ。彼女はゆっくりと僕に自分の横顔を一瞬だけ見せて、そのまま何も言わずに本堂の中へと入っていっ
た。そのとき人間というものは果たして何なのであろうかと思ったが、すぐにその答えが分かった。神である。
KST 2011/02/06 01:19
そこには大きな屋根を持つ、全体を黒く塗った神社があった。天まで届くようなその立派な外見は、それを見る者全
てを魅了するに違いない。真っ赤に染められた寸胴な鳥居と、祀られているありがたい、ありがたい神様が、僕の心
をきつく締め付ける。神社の本堂の前にかっこよく立っている門は綺麗に黒光りし、じっと見ていると目が煌めく。
「何て感じの良い神社なんだ」と僕は思った。天才的なその造りは自分の中では最高だ。その神社には、ある一人の
巫女が住んでいたが、彼女の父親は昔、家出をしてそれ以降音沙汰もなく、彼女は母親から僅かな恵みを受けている
だけだった。彼女はすでに一人前の巫女になっていて、神社での仕事は全て覚えている。例えばお茶を飲みながらで
も、お祓いをすることが出来るし、弁当を食べながらでも、荼毘に付すことが出来る。彼女は大きさを比べることが
出来る布のような物を取り出し、徐に、自分の目の前でヒラヒラさせ始めたが、一体どこから持って来たのか、大き
めの福袋を片手に持ち、周りにいる観光客たちは全員、禄を食んでいる。彼らの独特な動きは、例えるなら寿司を握
っているようなイメージだ。僕はふと、自分の学生時代を思い出した。今、その懐かしい思い出にひたっている。「
あの時と同じ感覚だな」と僕は言った。彼女は笑い、自分の老けた顔を他人に見られたくないのか、ずっとそっぽを
向いたままだ。彼女はゆっくりと僕に自分の横顔を一瞬だけ見せて、そのまま何も言わずに本堂の中へと入っていっ
た。そのとき人間というものは果たして何なのであろうかと思ったが、すぐにその答えが分かった。神である。